英語の語順について、Part-1 で説明しましたが、今回はさらに深く掘り下げます。
英語はダイレクトに結論から言うことが大切です。日本人は英語でも背景から説明しがちです。日本語は「起承転結」と習ったように、最後に結論で構いません。しかし英語では「最初に結論を提示」が基本です。特にスピードと正確さが求められるビジネス会話ではこれは必須です。もちろん日本語でもこの順で説明する方がビジネスには適しています。
英語で特に気をつけなければならないのは、下記の2点です。
1. 一文の中で最も重要なことは始めに言う。 2. 段落の中でも結論や最も重要なことを最初に言う。
ここに二冊の本から「はじめに」の最初と最後の段落を抜き出して比較してみます。両書ともイノベーションなどに関わっている人たちを対象とし、広く著者が大切にしてきた「新しい価値」を説明している本です。
例一 Preface 最初の段落
This is a book from two brothers who have been close all their lives. As children in small-town Ohio, we played baseball on the same Tigers Little League teams in the summer and built snow forts together in the winter. We shared a bedroom for fourteen years, tacking up posters of muscle cars on the knotty-pine walls in the kind of finished basement that was popular in the Midwest. We went to the same grade school, joined the same Boy Scout troop, went on family vacations to Lake Erie, and once camped all the way to California and back with our parents and two sisters. We took many things apart, and put some of them back together.
Preface 最後の段落
Why a book about creative confidence? Because we have noticed from thirty years at IDEO that innovation can be both fun and rewarding. But as you look at the sweep of your life and start to think of legacy that survives beyond it, giving others the opportunity to live up to their creative capacity seems like a worthy purpose. In the midst of David’s battle with cancer in 2007, a recurring question was “What was I put on Earth to do?” This book is part of the answer: To reach out to as many people as possible. To give future innovators the opportunity to follow their passions. To help individuals and organizations unleash their full potential—and build their own creative confidence.
最初の段落の最初の文で、「自分たち著者は兄弟でずっと近しく生きてきた」と言っています。その具体例がリトルリーグやボーイスカウトなどの話で膨らまされています。最後の文ではいろんなもの(機械でしょう)を分解しては組み立てることをやったと言っています。これが創造性についてのこの本のテーマにつながっています。
最終段落を見てみましょう。最初に「なぜcreative confidenceなのか」と問い、次の文でダイレクトにその理由を述べています。そしてどのような読者を想定して(どんな人たちの役に立とうと思って)書いているかが明確になっています。そしてこの本で述べることに対しては絶対の自信を持っていることが見て取れます。
例二 Introduction 最初の段落
In the mid-20th century, the Japanese manufacturing industry introduced the Kaizen principle to the world. Japanese for “improvement”, this principle combined industrial knowledge and employee participation to increase productivity and quality while also reducing costs and improving the working environments. The Kaizen principle attracted attention outside of Japan, and now the word “Kaizen” is known the world over. What should Japanese companies bring to the world in the 21st century? I would like to propose a whole new value system: KAITEKI or “comfort”
Introduction 最後から二つ目の段落(最終段落は謝辞なので)
As I write this book, I will be pondering what this essential principle entails. I will tell you as much as I can about science’s investment in KAITEKI, about research and development, and the current state of the chemical industry. I will also discuss the new direction my company is taking, and what we are doing to implement KAITEKI. I hope that this will provide some suggestions for what a company should be doing, or what the future will hold for not just Japan, but for the world, to employees in businesses, especially to those at early career.
全体的に、日本人にありがちな日本的な英語です。
最初の段落では、本のタイトルとは全くかけ離れた日本の改善活動の歴史について語られています。そして最後の文になってやっと本題である「快適」について触れられています。しかもそれは “I would like to propose...” なのです。わざわざ本にして主張したい、あるいは社会に理解を広めたいというには控えめすぎます。日本語だと「新しい価値のシステムを提案したいと思います。」ということになりそれなりに興味をそそりますが、英語で読んだ私は、この先を読む興味を50%くらい削がれました。
最終段落はどうでしょう。ここまでIntroductionを読んできても「this essential principle」は「快適を追求することが21世紀には必要だ」ということなのでしょうが、なんだか正体不明のテーマのようにしか理解できません。しかも “I will be pondering...”ですから、著者が「確固たる主張が明確になっていない」と自白しているのです。これは日本文化特有の謙遜なのですが、英語でこれをやってしまうと怒って読むのをやめる人は多いと思います。実際に私はIntroductionのわかりにくさにイライラしました。「行間を読む」という日本語の気持ちで読めば、これはワクワクする本だとは思います。しかし英語で読んでいるときは日本人の私でも「行間を読む」という習慣がありません。英語がローコンテクストだからです。最後の文は著者が想定している対象読者です。ここでは “I hope...” から始まっており、読み手側に内容理解の責任を転嫁しています。日本語特有の構造です。しかしローコンテクストな英語では内容を伝える責任は話し手にありますので、読者は煙に巻かれたような気持ちになります。
ちなみに断っておきますが、私は二例目の本について、内容をとやかく言っているわけではありません。あくまでも英語の文章構造に着目してのことです。私は最後まで読みそれなりに得るものは得ました。またこの二冊目の本も、英語の文法としてはほぼ問題ありません。違和感は文化の違いからきているのです。
上記二冊の英語の違いの大きさを理解いただけたでしょうか。日本語の発想のまま、英語でも自分の言いたいことを最後まで明かさないために、日本人は「何が言いたいのかわからない」と言われるのです。
1. 一文の中でも最も重要なことは始めに言う。 2. 段落の中でも結論や最も重要なことを最初に言う。
この2点を心がけて訓練する価値は十分にあります。
Reference [1] Tom Kelly & David Kelly. (2013). "Creative Confidence - Unleashing The Creative Potential Within Us All", Crown Business, New York [2] Yoshimitsu Kobayashi. (2011). "Good Chemistry for KAITEKI - A Challenge to a Sustainable, Healthy and Comfortable Society", Hankyu Communications, Japan