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最近聴いて良かった音楽 23/12

最近聴いて良かった音楽についてつらつら語るコーナー。新旧混合。


Viene…/Congregacion

南米チリの音楽を漁っていたところ見つけたアルバム。現地では不動の名盤と称されているらしい。
名盤扱いも納得の、浮遊感と土着感あふれる神秘的なフォークが楽しめる。決して陽気な音楽ではなく、むしろダウナーな音楽性なのだが南米の空気感を確かに感じる。これは唯一無二のアルバムであろう。

白眉は二曲目Arrebol。バイオリンのリフやコード感が最近のフォークと言われても信じてしまいそうになるほど現代的。

ちなみにこのアルバム以外にもチリには南米を代表するアシッドフォークの名盤がめじろ押し。興味ある方は是非調べてみよう。


Party Drive/小原明子

少し前にシティポップブームが起こり、それ以降日本産R&Bのレコードがべらぼうに高くなったのは皆さんご存知だろう。しかし海外の音楽好きは専らレコードを漁っているので、CD作品はまだ安いまま。それ故Book Offの300円コーナーにも埋もれた90~00年代シティポップ名盤が意外と眠っているのだ。その筆頭と言えるのがこの作品。

これに関しては御託を並べる前に聴いてもらうのが一番早い。大変良質な国産レアグルーヴを頭から終わりまで贅沢に楽しめる。渋谷系のアシッドジャズ解釈を通過した後のポストドリカムと言うべき非常に完成度の高い作品だ。

この手の作品だと岩下清香の眠らせないでがあるが、あれより「黒い」音楽になっている。言うなれば、岩下清香は70年代再解釈、小原明子は海外との同時代的共鳴、という感じだろうか。


Thousand Bells/YUI ONODERA & 小久保隆

緊急地震速報の音楽でお馴染みの環境音楽のパイオニア・小久保隆が一枚嚙んでいる新譜。

今年出たアンビエントの中でも「丁寧さ」がずば抜けている。風鈴やウィンドチャイムの音をただ鳴らすのではなく、どのように、どのタイミングで、どの位置から鳴らすべきかはもちろんのこと、どうやって録るかまで考えているのがありありと伝わってくる渾身の一作。

80年代に「これなら俺でもできる」と思ってパンクを始めた人が増えたように最近アンビエントをやる人が増えているそうだが、このアルバムを聴いて「自分でもできる」と言う人は少ないだろう。「アヴァンギャルドの技術」を教えてくれる、素晴らしい作品。


川/乙女絵画

札幌の大学生バンドの作品。betcover!!を筆頭に、歌謡曲然としたメロディラインと現代詩風の歌詞を持つ若手バンドが増えているが、その中でも一番慈愛に溢れている。

フォークとシューゲイズの狭間をうろうろしながら、シュールで柔らかな言葉を載せていく様は不安定な若者の精神を表すよう。かなり斬新な音楽性だが、懐かしいと感じてしまうのは何故だろうか。

今後が楽しみなバンドである。というか札幌ってなんでこんなに良い音楽家が多いの?地元仙台にはyumboしかいないのに


Social Limbo/Opez

イタリアのサイケバンドによるインスト集。

チープなオルガンの音に埃をかぶったようなメロディを紡ぐギターと、なんとなく日本のGSにも通じる印象を纏った曲が揃っている。洋楽なのにどことなく演歌っぽささえも感じる。昔のイタリアなどもちろん知らないが、恐らく半世紀以上前には実際こういうのが流行っていたんだろうなと感じさせる作風。「ゴッドファーザー」の世界では、本当はこんな音楽が流れているのだろう。

ちょっとさびれた洋風居酒屋でかかっていたら雰囲気出ること請け合い。有線からこれに切り替えよう。


Satellite Rides, Night Lies / Osoyoos

前衛ギタリストCal Lyallと日本を代表するスティールパン奏者町田良夫によるユニットの新作。本作ではLyall氏は専らバンジョーを弾いており、町田氏もスティールパン以外にガムランなども演奏している。

人の手を介さず風で偶然鳴った鉄くずのような金属音が、中東音楽風味を感じさせるバンジョーを彩る。町田氏は金属の倍音を研究されていたらしく、他バンドを圧倒するほどの厚みのあるガムランの音が大変印象的。デュオとはとても思えない。今年の前衛フォークの中でも抜群の出来である。

SF小説"DUNE"の世界観のような、地球ではないどこかの文明の音楽を聴いているようにさえ思える。エキゾチカと銘打っているが、「エキゾチック」と言えば大抵地球の内部に収まるのでこの音楽は「エクストラテレストリア」とでも呼んだ方がいい。


Mystic Islands Dub / HARIKUYAMAKU

このところ毎年出てくる民謡再解釈バンドの名作。今年はこれである。60年前の沖縄民謡の録音をダブエディットするユニットのメジャーデビュー作。

ダブといってもジャマイカ風味はかなり抑えてあり、古い民謡を多少現代的にした程度にしか感じさせない。白眉はChimborahであり、拍子があってない60年前の演奏の空気感をそのままにエレクトロ化している手腕は見事。インタビューによると、「沖縄独特の節回しやリズムを変えたくない」とのこと。敢えて譜割を変えている民謡クルセイダーズとは対比される。

何よりすごいのはこれが日本コロンビアから出ていること。民謡クルセイダーズでさえPヴァインであることを考えると、メジャー企業からこれが出た意義は大きい。


Master Of Bamboo Mouth Organ - Isan, Thailand / Sombat Simla

タイのケーン奏者Sombat Simlaの演奏を記録した録音。サウンドアーティスト兼研究者の森永泰弘氏による録音だそうだ。残してくれたことに感謝。

まずとんでもないのは完全なるアコースティック楽器独奏の録音であるにも関わらず電子音楽のように思える瞬間が多々ある点である。カットアップしていると勘違いしてしまった箇所も幾つかあったが一切テープには手を入れていない。なんでも非楽音の模倣にも長けているようで、今作でもその技術がふんだんに使われているのだ。

何も知らされていなかったのなら、最近のミニマルミュージックかと思ってしまったであろう不可思議なアルバム。ユニークさで言えば今年指折りの作品である。

Master of Bamboo Mouth Organ: Sombat Simla [Isan, Thailand] 🇹🇭 Sombat Simla is a khene - แคน (bamboo mouth organ)...

Posted by Thai Culture to the World on Wednesday, July 8, 2020


Panorama / omniboi

ロサンゼルス在住のトラックメイカーによる作品。

ジャンル的には最近流行りのベッドルームポップになるのだろうが、それにありがちなケバケバしさが大分抑え目。90年代のエレクトロハウスをベースにしたのであろうことがひしひしと伝わり、それ故かポップ路線のMaltine作品に通じる日本的な香りもする。

Cagecraftはポスト渋谷系的なかわいらしさを感じて特にお気に入り。懐かしさを感じさせると同時に明るい気分にさせてくれる。


月の残響 / 失業魔法少女

猫街まろん氏が呟いていたので知った同人音楽。どうやら台湾在住の方らしい。

この手の作品には珍しく、ピアノ主体のポストクラシカルである。どこか押井守作品を思わせる優美で儚げな世界観が楽しめる。同人とは思えないほどに完成度が高く、徳間ジャパンから出ているなにらかしらのサントラのよう。

タイトルからしてドビュッシーへのオマージュなのであろうが、まさに現代版月の光とも言うべき幻想世界が広がる。万人にオススメ。


Avant Xmas

時節柄クリスマスアルバムの新譜を一つ。アヴァンギャルドでクリスマスソングをやるアルバムである。

スカム・ノイズ・ミュージックコンクレート・アンビエント・フリージャズなどなどアヴァンギャルドの技法もりもりでお馴染みの曲たちをカバーしている。ただ滅茶苦茶やっているわけではなく、擬古典主義なのだろうかアイリッシュなスタイルの曲も入っている。なんだかアヴァンギャルド音楽の百科事典のよう。

またアヴァンギャルドで演奏すること自体がクリスマスソングのBGM性を剥奪するような行いであり、その点で批評性も高い。なぜ今まで誰もやってこなかったんだろう?と思えるほどにニッチを突いた快作であり怪作。




近況報告

・前回から大分間が開いた、最近聴いた良い音楽特集。ちょっと前の新譜も多かったなあと思った人もいるかも。

・というのもなんだか夏ごろから精神的に不安定で音楽を聴けていないからである。精神科にかかろうかと思ったものの、僕みたいな生活に支障のない人が行っていいのだろうかと思ってやめてしまったが。

・それゆえ今年の音楽再生時間は4.5万時間と例年の半分程度であった。

・よって今年は毎年作っていた年間ベスト記事を作りません。この程度で書いてしまったらお里が知れてしまいます。(ある程度見られることを考えるなら、最低8万時間は聴かないと作るべきではないと思います。)下にプレイリストを貼るのでそれを年ベスの代わりとさせていただきます。

・精神の安定のため人と音楽をやることに専ら注力している。後輩の零進法君のバンド・Hollywood Digital Communicationでキーボードを叩いています。

・HDCとして出たライブでお会いした人の新譜が良かったので推薦。是非聴いてみよう


・知り合いといえば、昔お世話になった先輩・埜咲さんが金属恵比寿に加入。こんなことってあるんですね

・言わずと知れたレン・コマサワ(駒澤零氏)やKhaki、Twitterの評論界隈の旗手になりつつあるもこみ君を筆頭に、先輩・友人たちは皆色々頑張っている様子。誰も評価しない記事を長いことひっそり書いている僕と比較すると天と地以上の差が開きつつある。

・名声が欲しいわけではないが、新しい発想を4年試し続けて大して見られていないというのはなかなかキツイものがある。同業からもほとんど声掛からないし……

・最近は小一時間喋るだけの配信もYoutubeでしています。芸術・音楽路線の話が多いので興味ある人はアーカイブをどうぞ。


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