最近聴いて良かった音楽(22/11)

最近聴いて特によかった音楽をもにょもにょ書くコーナーです。新旧混合。


Step on Step - Charles Stepney

彼の名は知らなくとも、Earth, Wind and Fireのプロデューサーと言えば驚かない人はいないだろう。Charles Stepneyはそんな70年代の名裏方として知られている。その偉大なプロデューサー業とは裏腹に生前に自身のソロ作を遺さなかったものの、つい最近宅録音源集である今作が発表された。この23曲全て演奏含めて一人で作ってしまったというから凄い。

やはりE, W&F風のブラックミュージックなのかなと思いきや、エレピやビブラフォンのプレイが素敵な70年代ジャズ。ただスタイルが違うだけでグルーヴ感は完全にE,W&F。ところどころに宅録らしいチープなドンカマの音が鳴っているのも趣深い。白眉はシングルカットもされていたタイトル曲"Step on Step"。ほとんどBobby Hutchersonみたいな曲であり、これをたった一人で作り上げてしまったことに舌を巻く。


The Tale Of A Long Forgotten Sunken City (水底に眠る忘れられし町の物語) - 大崎誠一

吉村弘を彷彿とさせる非常に良質なアンビエント。タイトル通りの水流や深海を彷彿とさせるシンセサイザーの音やSEが心地よい。HAYAMA Sound Rogoの雰囲気に似ているかもしれない。あれをさらに長大にした趣。

ジャケも音像も80年代の発掘音源感が満載だがどうやら今年出た新譜らしい、不思議な一作。作曲した大崎誠一氏も白黒の顔写真と名古屋にいると自称している以外は素性不明である。

今作はコンセプトアルバムらしく、Bandcampのページには英語で昔のRPGの説明書に載っているようなそこそこ長い西洋民話チックなお話が書かれている。アンビエントなのにクサメタルっぽいぞ。

そして驚きなのはこれはBandcampでは投げ銭で出ている点。即ちタダで音源が手に入れられる。このレベルの音楽がタダなのは価格破壊しすぎ。


Remember Me - Yashmin Charnet-Abler

新宿のユニオンに友人と行った時、値札に書かれた「ロシアンMPB」の文句に二人爆笑した一作。しかしながらMPBとしての完成度はなかなかのモノ。Vo.のポルトガル語も本国と遜色なく、ブラジル産と言われても気づかないだろう。

調べたところYashmin Charnet-Abler氏はロシア人とはいえリオデジャネイロ生まれらしく上手いのも納得。ちょうど小野リサ的な感じだ。歌のみならず、軽快にソロを取っていくピアノやギターも素晴らしい。インディー盤にしては破格の売上を誇ったらしいが、それも納得だ。

あとこういうのを聴いていると「ニューヨーク在住ロシア人がブラジル音楽やってるのを日本で聴いてるんだなあ」などと思って世界に思いを馳せるのは僕だけではないハズ。


路上 - 柊

KEEPONに代表される70年代日本語ロックを意識した宅録アルバム。大学二年生とは思えない渋い声で、アメリカに追いつけ追い越せと息巻いていた70年代日本の空気を描いている。

ノリのいいバンドに合わさった嗄れ声のボーカルは、キャラメル・ママで佐野元春が歌っているかのよう。これを一人でやっているというから驚き。また単なる70年代邦楽の模倣だけではなく、多様な時代の音楽への憧憬を感じられるアレンジと歌詞になっているのも魅力。現代版浅井直樹と言って良いかもしれない。

残念なのは誰も聴いていない所。これは比喩でもなんでもなく本当に誰も聴いていない。このレベルの音楽が埋もれるのは勿体なさすぎるので、誰も知らない音楽が大好きな皆様はすぐ聴こう。


Shebang - Oren Ambarchi

みんなの強い味方、Oren Ambarchi先生がまたやってくれました。知らない方のために説明するとOren Ambarchiはオーストラリアの前衛ギタリストでドゥーム・メタルでお馴染みSun O)))のメンバー。ソロ作では人力ミニマル・テクノとも言うべき作風が楽しめる。

そして彼は個人的に思い入れの強い音楽家だ。まだ音楽を聴き始めたばかりの頃、名盤Hubrisで前衛音楽の楽しさを教えてくれたのはほかならぬOren Ambarchi。僕は以降先生と呼んでいる。

今作はそんなHubrisの続編とも言うべきアルバム。インド音楽を彷彿とさせるAmbarchi節の極めてミニマルなギターに、Paul Breyもかくやと思われるピアノやJim O'Rourkeのシンセ等が楽し気にインプロを続ける。楽しさと前衛性の両立はHubrisを超えたかもしれない。各ジャンルから良盤が集まる今年でさえも屈指と言っていいほどの名作だ。必聴。


ちるちるみちる - 畑下マユ

去年のわがつまもそうだったのだが、秋になると不意にフォークの新譜名盤に出会うことが(個人的に)多い。今年の不意にフォーク枠がコレ。

一聴してニック・ドレイク+青葉市子という計算できない計算式が頭に浮かんだのだが、全くそんな雰囲気の音楽。透明感ある畑下氏の歌声に渋いガットギターや物憂げなサックス、フルートが絡み合う。誰もいない暗い森の中で聴きたくなる。時代から完全に解き放ち、全てを優しく包んでくれるフォークの特長が存分に発揮されている。

一つ難点を挙げるとすればサブスクに来てないのでおいそれと人に勧めづらい点。上のようにレコ屋でフィジカルを扱っているのと、Bandcampで音源が販売されているのでそこから聴いてみよう。


Plays Music for Airports - Psychic Temple

アメリカのサイケバンド。アヴァン・ジャズとサイケロックの間みたいなことをしているらしい。それってカンタベリーでは

なんだか見覚えある曲名があるが、このアルバムではMusic For Airportsの一曲目を人力で演奏するという奇怪な取り組みが行われている。使われているのはギター、ベース、トランペット、鍵盤、ドラム。ジャズのような編成だ。

これらアコースティックな楽器で演奏されるアンビエントの名曲は、ほとんどスピリチュアル・ジャズ。ドラムが結構元気で、原曲より曲中の緩急が分かりやすくなっている印象もある。でも原曲のアンビエント性は損なわれていない。ゲームやっている時に流しているといつの間にか終わっている。

二曲目の"Music for Bus Stops"はオリジナル曲らしい。こっちは曲中ずっとドラムが8ビートで刻んでおり、完全にジャズ。


Spec. - Taylor Deupree + Richard Chartier

最近Lowercaseというジャンルをずっと聞いている。音数を極端に減らしてみたり可聴域ギリギリの音を使って構成したりした音楽で、ミニマリズムの最果ての意味でこの名がついているらしい。

この手の音楽だと0奏の冷泉をよく聴いていたが、最近見つけたこれもなかなか良い。ぽつぽつとほとんどノイズのような音を間を置きながら配置していくのは、さながら虫の音。虫やカエルの鳴き声を再現したスガイ・ケンの如の夜庭も思い出す作風だ。もしかしたらこれを聴いて思いつたんじゃないかな。

界隈ではこのユニットは有名らしく、結構な頻度でアルバムを出している。(レーベルはアンビエントを聴いていると偶に出くわす12K。)
どれもなかなか良いのでアンビエント/エレクトロニカ好きは必聴。


狂気の真珠 - 静香

フランスで日本のサイケを掘り返しているAn'archivesから最近出た作品。90年代にサイケシーンで活躍したボーカリスト・静香氏が2001年にスタジオ・セッションしたときの音源らしい。その為か音質は21世紀に撮られたと思えないほど悪い。

雑なサイケデリックなバンド隊に、どうしようもなくイノセントで不安定なボーカルが乗っかってくるのは端的に気持ち悪い(もちろん良い意味で)。

またサイケロック一辺倒なわけでもなく、プログレのB面に入ってそうな、アシッドフォーク風の小品もあったりする。そのどれもが質が高く、音質相まってさながら60年代のアルバム。こういうバンドが90年代から活動していたのは驚きである。

あと下動画のサムネにもなっているが、これが収録されていたDVDのジャケがほとんど演歌のジャケ。Windowsで作ったのか。




その他お知らせ

・前まで無かったイタプロ(イタリア産プログレ)がいつの間にかサブスクに来ていた。やったね。


・キリンジのインディー時代の音源集・2 in 1もぬるっとサブスク解禁。中古が高騰していたのでありがたい。


・名盤・ハレルヤズ「肉を喰らひて誓ひをたてよ」がBandcampに。こちらもプレミアつきまくりだったので嬉しい。プレミア価格でCD買ったけどね!!


・音楽ファンからの支持も篤い「ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌」がこの度ブルーレイ化。VHSでしか見られなかったのでとても嬉しい。


・アクモンもThe 1975もナイアガラ的な解釈ができる新譜を出していた。これからは大滝詠一の時代。風の時代はもう古い。


・”Superbigmouth”という文句を積極的に使っていきたい所存。


・スプラトゥーンのBGMに最適。


・こんな素敵イベントが先日あったらしい。お金が無くて行けなかったよ。悲しいね。

http://thepianoera.com/


・パワーメタルでカントリー風の曲をやっているオモシロ音楽。明るくてPVも曲調も愉快だけれど、歌詞は生け贄の話だった。暗。


・思想を感じるTwitterアカウント"albums that are better than donda"


・折坂悠太みたいな名前の漫才師。ちなみに漫談の時は(独奏)、コントの時は(合奏)になるらしい。


・学園祭で後輩がサークルの会場に曇ヶ原を呼んでビビった。21世紀の精神異常者といちご白書をもう一度をマッシュアップして演奏していた。


・後輩が先輩のレーベルから曲を出していたので聴いてあげてください。僕もプレス文や紹介文などで協力しています。これが三世代協力です。


・学園祭でやった自分の音楽が意外と評判良かったので、もにょもにょ続けたいと思う。

・精神的に不安定なとき、一部の音楽しか聴けなくなるのをどうにかしたい。

・一部の音楽とはたまと戸張大輔の意。たまにBoys Age。


・以上三曲は最近の再生ランキングTop3であること間違いなし。

サポートしていただくとマーマイトやサルミアッキなどを買えます。