最近聴いてよかった音楽 24/06
最近聴いて良かった音楽です。新旧混合。
Kiko's Secret Garden / No Memory
アイダホ州のアンビエント作家による作品。
映画のサントラのような、キンキンにリバーブがかかった電子音や鐘などが心地よい。その中からわずかに聞こえる川の流れ、鳥のさえずりといったフィルレコにも大変癒される。アンビエントというより、ヒーリングミュージックに近い性格を持った作品である。疲れた日常から逃避したい時、八面六臂の大活躍をしてくれること間違いなし。
サブスクに来ていないのが残念だが、Bandcampで投げ銭で公開中。無料でダウンロードしてしまおう。
Unofficial Wii Sports Soundtrack / Gabriel Gundacker
架空のWii Sportsサントラ。絶妙にWii Wportsにありそうな音楽がたくさん入っている。特に二曲目"Wii Snorkeling"のそれっぽさには笑ってしまう。ありもしない選択画面が目に浮かぶ。
最近「架空○○」が幅を利かせているが、音楽においても架空のアニメやゲームのサントラという体で出されているアルバムをたまに見るようになった。直近だと大山田大山脈が架空のゲームサントラをコンセプトにしたアルバムを出したりしている。その中で今作は2017年発表。そういった作品の先駆的存在と言えるだろう。
恐らく架空サントラのコンセプトはVaporwave由来のように思う。「架空のショッピングセンター」「架空のテレビ番組」など、Vaporwaveが「架空の○○」を押し広げた結果生じたものだろう。しかし、今作は(多少BGM的側面はあれど)Vaporwaveの音楽性から脱している点でも評価できる。ポストVaporwaveの好例として聴いておいて損はない!
命のドアをノックする / 増田壮太
一部でカルト的人気を誇る00年代のSSWのベスト盤。かねてから名前は存じ上げていたが、サブスクにないのもあって今の今まで聴いてこなかった。
下馬評通りの素晴らしい作品。文脈的には下北系等の邦ロックなのだろうが、多くの邦ロックと比べるのも申し訳なくなるほどに真摯に作られていることが伝わってくる。フォークとシューゲイザーが足し合わさったような作風であり、大変現代的。そして切実な歌詞もすっと入ってくる、耳馴染みの良いメロディラインのレベルも非常に高い。こういった音楽が既に00年代に存在していたことに驚きである。
これほどの秀作を作りながら増田氏は機会に恵まれず、それを苦にして若くして自殺されている。大変残念。
彼の半生を収めたドキュメンタリー映画もあるらしい。是非見てみたい。
A Tempo E A Gosto / BORORO
ブラジル音楽の裏方として活躍した人物によるアルバム。70年代の録音だが最近見つかったものらしく、あるレコード屋曰くブラジルの秘宝らしい。ブラジル音楽にはやたらと至宝やら秘宝やらと文句がつくが、ブラジルは宝箱か何かなのか。
80年代風味のあるアープのシンセサイザーと往年のブラジル音楽の伝統を感じさせるアコースティックバンドとが共存しているのが面白い。79年録音ということから伺えるように、70年代から80年代への過渡期ならではの音楽である。こういった進化の過程上にある音楽は後にも先にもない音楽性であり、とても価値があるものだと思っている。
ブラジル音楽の中でもAzymuthとかが好きな方にオススメの一作。フュージョンに呑みこまれる直前のブラジル音楽を是非味わおう。
Mirror Mirror / Olli Ahvenlahti
フィンランドのジャズピアニストによる作品。ブラジル音楽のグルーヴと北欧の洗練を融合させた人物として同国ではよく知られた存在らしく、クラブ音楽の文脈で大変人気のある音楽家だそうである。
今作でも「熱くもクール」な作風は健在である。情熱的なサックスと、それを受け流すように爽やかなエレピやタイトなリズム隊の交わりが心地よい。高速道路をぶっ飛ばしながら聴いたら爽快なこと間違いなし!
人工島 / 電球
先日発表された謎の二人組によるユニットの1stアルバム。レーベルから発表されたり過去に話題になったりした訳でもないのだが、内容の良さから発売してすぐに音楽好きの間で話題になっていた注目作だ。
昨今度々見かけるシューゲイズと打ち込みの掛け合わせた音楽性。マイブラ的なサイケデリアも多分に感じさせる一方ジャパノイズのような陰鬱さがアルバム全体に漂っており、90年前後のアングラの空気感をシューゲイザーにしたような印象を感じる。既に指摘されている方もいたが、アティチュードは割礼にかなり近しい。
昨今のシューゲイザーでも指折りの出来。ジャケットのような白黒写真の情景が脳裏に浮かぶ作品である。
TRANCE / 坂東祐大
『大豆田とわ子と三人の元夫』や『怪獣8号』の劇伴や米津玄師の編曲などを手掛けてきた、現代日本音楽界の裏の主役こと板東祐大氏のアルバム。多くの人を捉える音楽に携わった経歴と裏腹に彼自身のソロでは様々な声素材やミニマルな器楽演奏をユーモラスにアレンジした、かなり前衛的な音楽を作っている。AC部が手掛けたMVで知られる『ドレミのうた』は好例だろう。
TRANCEは『ドレミのうた』でみられるようなの音の実験をアルバム一枚で聴かせてくれる。フルートやサックスなどに狂気的に思えるような演奏を反復させたかと思ったら、突然妙な鳴り物や謎の機械音が次々に登場し、聴いていて飽きない。CorneliusのFantasmaをアコースティック&クラシックにしたような感触を受ける作品だ。こういった作品を作る方が、誰もが耳にするポップスの最前線に携わっていることは素晴らしい。
A Lonely Sinner / samlrc
ブラジルからやってきたフォークトロニカの新譜。強力な今年のベストアルバム候補の一つ。
フォークトロニカをはじめ、アンビエントやシューゲイザーなど宅録音楽の最近の流行を抑えつつ、時にはノイズにまで変化する縦横無尽さがウリ。その一方でフォークトロニカらしいサイケデリックな優しさはアルバム全体に通底しており、フォークトロニカから見た現代ポップスの総括とも言うべき内容になっている。
知人は「Neutral Milk Hotelっぽさを感じた」そうだが、アシッドフォークから如何様にも発展させて見せるIn the Aeroplane Over the Seaの世界観に近いものもあるかもしれない。個人的には、今年のベスト15枚には必ず入れたいほどの名作だと感じている。
What is My Purpose? / Dolphin Hyperspace
既に各所で話題になりまくりだった新譜。どうやらLouis Coleの周辺人物によるバンドらしい。
ニンテンドー64のサウンドフォントを彷彿とさせるゲームミュージック風の音作りのバンド隊が確かな技術でモダンジャズを奏でていく、なんとも不可思議なアルバムである。StardustやTea for Twoなどのスタンダード曲も入っているが、他のカバーに比して妙な愛嬌が出ている。なんだかAmazing Digital Circusの劇中で流れてそうな可愛い音楽である。
硬いイメージのあるモダンジャズとキュートな音作りとのギャップが面白く、爆笑しながら聴いてしまった。話題になったのも納得の、最近のアルバムの中でも特にユーモアあふれる作品。
Cycle / H TO O
5月の良ンビエント。三軒茶屋の環境音楽専門レコード屋kankyo recordsの店主H.Takahashiと以前ユニットで彼に協力したこともあるKohei Oyamadaとのユニットによる作品である。今作はH.Takahashi氏のソロ作として発表する予定だった作品の断片から構築した作品らしい。
H.Takahashi氏は80年代日本の環境音楽からの流れをかなり汲んでいる作風なのだが、今作もその影響を感じさせる人懐っこい音作りである。オルゴールのような金属音とミニマルなFMシンセの音の響きが大変心地よい。一つ前のDolphin Hyperspaceのレビューと若干被ってしまうが、大変可愛らしいアンビエントである。どんな表現であれ、キュートであることは重要だと思っている。
余談だが、このアルバムを「良ンビエント」として紹介した後にした、「良ンビエント」の意味を解説するツイートが微バズした。「良ンビエント」というワードをみんなも使ってみよう。
Capa Disco Works / Celex
ソウルのプロデュサーの手による作品集。アシッドハウス然とした曲が6つ入っている。
303のうねうねベースを中心に据えまがらも上物楽器の音選びは80年代のディスコ音楽のようであり、それらの折衷とも言うべき作風である。また後半はややエスニックな空気も漂い、バレアリックの枠組みでも捉えられそうでもある。実際スペイン・マヨルカ島に行った後に制作された作品らしい。
アシッドテクノでありながらどこかオーガニックな印象を受ける。個人的にあんまり聴いてこなかったタイプの作品。
その他雑記
・羅針盤のアルバム「はじまり」がサブスク解禁。ただし名盤と言われる「福音」はまだ来ていないので注意。
・アンビエントの傑作として名高い蟲師のサウンドトラックもサブスクに来た。本編も素晴らしいので見たことない方は是非見てみてくださいね。
・お笑い芸人・友田オレ氏の楽曲が予想以上に良かった。芸人らしいユーモアセンスのある東京インディーである。
・長谷川白紙が新しいアルバムを出すそうだが、先行曲が何とビックリ、アシッドフォーク。面白いものになりそうな予感。
・他の人も呟いていたが、円城塔の短編"Boy's Surface"を思い出させるタイトルである。
・オモコロ編集部がラップを出していた。ラップする編集者といえばいとうせいこうである。もしかするとこの作品は現代の東京ブロンクスと言えるのかもしれない。
・やろうと思えば東京ブロンクスの対比として読み解けそう。
・Kun君が謎の中国インディーを発掘し、バズっていた。当初は日本のサブスクから聴けなかったこの作品、一体どこからこういうのを見つけてくるんだ……
・できれば音楽データが欲しいのでCDかダウンロード版を出してほしい限りである。
・もう一ケ月以上前になってしまったが、友人のもこみ君・リサフランク君両名がやっているポッドキャスト・脱字コミュニケーションに出た。インタビューしてもらっているので是非お聴きください。
・この中でボルヘスの話をしているけれど、最近ラテンアメリカ文学にハマっている。前衛芸術の流れを汲んだシュールさ、ラテン系らしいユーモア、南米の過酷な自然や社会の描写が合いまった奇妙奇天烈な奇想譚が繰り広げられてとても面白い。
・絶賛就活中。最終面接で社長さんに私がやっている音楽マガジン・Water Walkの記事を見せる機会があり、色々な意味で大変緊張した。
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