見出し画像

【750回】櫻井とりお「虹いろ図書館」シリーズを2冊読んだ

図書利用カードが赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の7色。7色の虹色である。それだけでも、プレミアムな感じがあふれる。僕が子どもだったら、キラカードが当たったときのように、にんまりしてしまうだろう。

この図書館は「虹いろ図書館」なのだ。

「虹いろ」は7色と書いた。ところが、厳密にはそうではないらしい。外国では、2色や8色など、色の捉え方が異なる。「虹いろは7色」というのは固定観念だ。固定観念とは、社会常識、多数派など様々な意味がある。「虹いろ図書館」には、その固定観念から離れた人たちが登場する。

第1作「虹いろ図書館のへびおとこ」と第2作「虹いろ図書館のひなとゆん」を続けて読んだ。

この2作に登場する人物をあげてみると、固定観念から離れた・離された人たちだとわかる。自分から離れたのではなく、離された・離れざるを得なかった人たちという意味だ。

いじめに会い、学校に行けなくなった小学6年生の、ほのか。
同じく、学校に行くのをやめた、中学1年生のスタビンズ。
髪の色も白くなるほど仕事に疲れ切っている、ほのかのお父さん。
学級経営にあきらめて、見て見ぬふりをする、ほのかの担任・織田先生。
いじめ加害者であり、人の顔色を伺い、弱さを明らかにできない、かおり姫。
腎臓病があり、午前中のみ登校をする小学4年生の、ひな。
濃い色の肌をもち、世界中をまわる謎の姫、ゆん。
そして、顔の左右で肌の色が異なる、司書のイヌガミさん。

これだけ書いても、その人にはその人の状況があるのがわかる。
「虹いろ図書館」は、その人たちを立入禁止にはしない。
多様な色を持つ場所だから、多様な人を受け入れる居場所になる。

「生きてる間は読み放題だ」

櫻井とりお「虹いろ図書館のへびおとこ」p126

図書館は、自分の存在に悩む人に、「読み放題」という活動を提供してくれる。本を手に取り、読み続けてくれる人にする。読む人がいる限り、図書館は読書の機会を住民に提供するという最大の役割を果たし続ける。人と図書館の存在が、続いていく。

ぎゅっとぐうをにぎった。
「あたしは自由だ」
そういったら、あれ?
消えたはずの、おなかの中の嵐がぎゅんぎゅんうなりはじめた……なにかしなくちゃとあせる気持ちと、今まで意地悪された怒りが合わさって育っているのかも。自分の力で正しいことへつき進めって、神様がいってるのかも。

櫻井とりお「虹いろ図書館のへびおとこ」p240

図書館は本を読まないといけない場所ではない。ただ座っている、勉強しているだけでも、職員は司書は、その人を追い出したりはしない。ほのかが「あたしは自由だ」と言う。傷つけられた自身を回復する力が生まれたのだ。図書館は、固定観念に縛られた社会に向かっていく回復力を与えてくれる場所になる。

「うん、だってそれは奇跡だもんな。別のところで生まれて、別の家で育った、別の人と意見が合ったら、それはすごいことじゃないか」(p140)

櫻井とりお「虹いろ図書館のひなとゆん」p140

同じ本を読んだ人たちが言葉を交わす。同じ本を読んでも、同じ感想を持つこともあれば、違う感想を言い合うときもある。本がきっかけとなって、人と人をつなぐ。

この物語は、図書館の機能を考えさせてくれる。
自宅と学校・職場以外のもう1つの場所。サードプレイス。
何も活動していないと自分の存在を否定する人に、読書という活動を提供してくれる。
本を通して、人と人がつながる。
本を読み、物語や言葉を吸収して、考える。脳の筋トレになる。
そして何より、本と生きる楽しさを教えてくれる。

3作目は、かおり姫が主人公のようだ。彼女は、ほのかをいじめた当事者だ。彼女は、ほのかをいじめた当事者だけれども、最初からいじめていたわけではない、実際、ほのかを最初に図書館に連れて行ったのは、かおり姫だ。
虹いろ図書館とかおり姫に、どのような関係があるのか。
続きを読んでみよう。