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音楽を聴く、音楽を香る。相反する2つの香りが生まれた理由【前編】| 長塚健斗(WONK)×和泉侃(IZUMI KAN)

THE STORY OF ”ORIGINAL FRAGRANCE”

―WONKのツアーグッズで今年はフレグランスが登場しました。きっかけとなったお二人の出会いを聞かせてください。

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Kento:以前、Nao Kawamuraさんのライブに出演させていただいた時に、侃くんが会場の香りを担当していて。ライブ後に彼を紹介してもらったんです、「香りの人です」って。なかなか普段そんな紹介のされ方する人っていないですよね(笑)。僕自身、もともと調香師になりたいと思った時期があるほど、香りに興味があったのですぐさま「何か一緒にやりたいです!」と声をかけて。

KAN:僕も、Kawamuraさんはじめいろんな人から、ずっと長塚くんのことは聞いていて。断片的な情報しか持っていなかったんですが、その日に全てが集約されて本人に出会った感じでした。 ミュージシャンだけでなく、料理人の一面もあることは聞いていたけれど、実際に話してみて、好奇心が多方面にあるし、香りについての感度が高いなと感じました。

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Kento:それは嬉しい。香りは、僕の日常に欠かせないものなんですよね。部屋にまきたい香りと、自分がまといたい香りは違うし、香りのことを考えている時って、自分がどうありたいかを考えている時だなと思っていて。自分の背中を押してくれたり、自分に自信を与えてくれるという意味もあって、ステージに出る前に付け直したりすることもありますね。
KAN:そうなんですよね、香りは人の感情にダイレクトに結びつくもの。 気持ちを静めたい時や上げたい時など、個人の生活の中のキーになりうる。僕自身は、普段調香師とは名乗っていないんです。「香りを作る」にとどまらず、「空間のデザイン」という切り口など、広義で「香り」を捉えていて。特に、今回のプロジェクトでは、 空間、インテリアデザイン、そこへ来る人々、その場の文脈、時間の濃度に着目しながら、香りでデザインしていきました。

―新EP「MOON DANCE」の名を冠した今回のフレグランスはどんな構想から始まったんですか?

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Kento:そもそも、僕らが所属しているEPISTROPHは音楽をベースにしながらも価値あるものを重ねていって一つのカルチャーを作りたいと考えていて。今回WONKのグッズを考えた時に何か実験的で本質的なプロダクトが生み出せないかなと考えていたんです。僕自身の香りへの興味もあって「フレグランスが作りたい!」と思って、あの「香りの人」を思い出して(笑)。侃くんの作る香りはどれも洗練されているんです。一度、僕のためにフレグランスのサンプルを作ってくれた時に、今の自分の感覚を鋭く捉えた香りを作ってきてくれて。それで、EP「MOON DANCE」の制作と並行しながら、本編となる次のアルバムの構想も含めて伝えたんですね。特に今作では、現実と反転して浮かぶもう一つの世界のような、二つの世界を表現したいと。
KAN:僕も音楽をやっていた経験があるからか、音楽と香りは一続きで捉えているんです。自然なアウトプットなんですよね。今回、この話を伺った時に、ミュージシャンとしてまずここまでコンセプトをしっかりと持っているのかと正直驚きましたね。そこから、まずは1種類のフレグランスを基点にしようと思って始めたてみたものの、試行錯誤の末、けっしてできなくはないけれど、二つの世界をより際立たせるために、分けてみようとなりました。

―これが、試作品ですか?「WONK人1」?気になる名前です(笑)。

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Kento:名前が強い(笑)。初期のサンプルは、人の温かみみたいなものを表現してもらったんですよね。それこそ人肌を意識してもらって。とにかくエッジィ。これはこれで個人的には好きだけれど、メンバーと話してフィードバックしたんです。『REALITY』 は、水っぽさやボタニカル、ネイチャーという感じで柔らかさを帯びてほしい。反対に『IMAGINALY』 はもっとメタリックで、無機質がいいなという感じで思い浮かんだ言葉を具体的に伝えていきました。そこで一気に汲み取ってくれて、第2回のサンプルで『REALITY』 は決まりましたね。

KAN: そうそう。1 回目のフィードバックもわかりやすかったから、話を聞きながら、ここ(※鼻を指差して)にある程度、香りのイメージはできてました。あとは、それを形にしていく感じ。料理もそうかもしれないけれど、ゴールは見えていて、そこに対してどんな素材をどの配分で組み合わせていくか、というところを考えました。

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Kento:たしかにその感覚は料理に近いかも。『IMAGINALY』は第2回でさらにフィードバックしたんですけど、「世界観に寄り過ぎかも」って伝えたんですよね。ど直球で、余白が少し足りないくらいの再現性だったんです。だけど、このフレグランスはルームフレグランスとしてや、実際に身にまとって欲しいと思っていたので、そういったシーンを意識してもらいました。
KAN:第3回には、もはやサンプルを一つしか持っていかなかったですよね。いつもだったら3パターンぐらい用意するんですが、もうこれしかないという香りが自分の中にあって。某PCの香りと呼んでいるのですが、アルマイト加工のアルミ缶、インクの匂い、紙の匂いが織り交じるような香り。さらにこれが人肌につけることで、変化していくんです。

―あらためて、『REALITY』と『IMAGINARY』を香ってみたいと思います。最初に決まった『REALITY』から。

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KAN:『REALITY』は名前の通り、人肌感というか優しさや甘みもはらんだ香りを意識しました。どこか安心して、鼻あたりがよくて、ナチュラル。すぐに日常使いができるようなカラフルな描写を香りでしていこうと。トップはブラッドオレンジから入って、ミドルはフェンネル。
Kento:フェンネル・・・!僕も料理でよく使います。隠し味的に使うことが多くて、香りとしてもさりげない香りだけれど、あるとないとで大きく違う。
KAN:香りの世界でも、まさにそう。ラストはスパイクナードの土っぽさがボタニカルな感じでほっとするように。『IMAGINARY』は、本当に正反対というか対になる存在になりました。異世界や近未来、SFのような世界観を意識しています。メタリックな香りって基本的には伸びづらいと言われていて、すぐに揮発してしまいやすいんだけれど、僕が長年温めていた調合パターンでエレミっていう樹脂を用いつつ、ブラックペッパーやユーカリを加えたらとてもうまくバランスが取れたんです。神秘的ではありつつ、ユーカリを入れることで香りが“持ち上がる“。この”持ち上がる“っていうのは無機質なのに軽やかさも持つというイメージです。

― ちなみに、このフレグランスは重ねて使ってもいいって伺いました。

Kento:まさに僕はそうやって使っています。それぞれの良さが振り切れているから、重ねてもすっとはまっていく感覚がある。重ねる、ということを知ってしまうとまた香りが楽しくなってきちゃうんだよな・・・。

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KAN:僕も、重ねる想定を頭に置きながら、組み立てていきました。レイヤーがはっきりと分かれているので、重ねてつけることで、厚みがましていく。
Kento:そういう意味でも二つの世界を分けて2種類の香りにする、というプロセスにも意味があるなと思っていて。作品を通じて僕たちが考えていることが、フレグランスを作る中でも様々なキーワードとして浮かび上がっていったんですよね。こうして時間をかけて、感度や感覚を大切にして会話を重ねていく、そうやって異分野のプロフェショナルと価値あるものを作ることが、まさに僕たちのしたいことなんです。

・・・インタビューの後編では、全国ツアーで展開した「香りによる空間デザイン」や「香りと料理の関係性」にも光を当てていきます。どうぞお楽しみに。

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IZUMI KAN  https://www.instagram.com/izumikan_products/

KENTO NAGATSUKA https://www.instagram.com/kentwits/

photo by Sosuke Hattori 

edited by Momoe Yoshimoto (EPISTROPH CREW)


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