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電光掲示板が滲む、揺らぐ

彼が参加しているイベントに行く

夜勤明けの体はまだまだ眠れる

でも彼の言葉を物として受け取りたくて

無理やり起きてシャワーを浴びて

彼が綴った言葉を買いに足を運ぶ


行きの最後の乗り換え

青と黒が混じった空

電光掲示板を見つめながら

あーこの日も絶対に忘れられない日になる

と思った

そしてこの日を最後にすると決めた



久しぶりに会う彼はなんだか若くなっていた

きっと眼鏡が黒縁に変わったせいだね

レンズが柔らかく色づいた薄縁の眼鏡は彼をぐっと大人に見せていたのだとそのとき気づく


バルコニーで煙草を吸う彼の横顔を見て

やっぱりどうしようもなく好きだと思った



でもわたしが(ほんの少しだけ)髪を切ったことに気づかないから
彼はもうわたしを(ほんの少しも)好きじゃないって分かって
良かった


風が吹いて 
ふわりと届いた香りに胸が締め付けられる
触れてしまいたくなったから
彼から目を逸らす



月のない夜


月が綺麗ですね

ってわたしが言わないように彼が隠したのかな




言葉を買ったら、すぐに帰った
さよならは言えなかった

ちょっと外の空気吸ってくるね

なんて言ったこともないセリフを吐いて
元々は映画館だった小さな箱から外に出た



迷わず駅までまっすぐ歩く

甘い引力に負けないよう

一歩ずつ確かめながら歩く


振り返ったら彼のところへ
走って戻ってしまうと思った





せめてカネコアヤノのサポートメンバーの演奏くらいは聴けば良かったかな

最後に彼とご飯に行けば良かったかな

なんてダサい後悔が頭をよぎったけど
掻き消して追いやって、ただただ夜を歩く


電車に飛び乗って彼の言葉をひらいていく
表紙の印字を上からゆっくり指で撫でる
その指はわたしの涙腺まで撫でて
涙が溢れて溢れて
オレンジのシャツに散らばった 


帰りの電車

もう二度と来ることはない駅で最初の乗り換え

ホームの電光掲示板が滲んで揺らいで

夜の空気に混ざった

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