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障害者雇用 おつかい

今の会社の人事部には、おつかいの業務がある。

不定期で、多い時は週2日ほど。

電車と徒歩で片道30分ほど移動して、人事部から預かった書類を先方に届けるという業務である。

このおつかい業務を、人事部で働いていらっしゃる派遣社員さんと分担している。

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書類ができあがるタイミング上、届けるのはいつもきまってお昼過ぎの13:30〜14:30。

朝の通勤時間帯だと次から次へとやってくる電車に必死になって乗り込むのだが、この時間帯はホームで少し待ちぼうけの「間」がやってくるので、なんとなく気持ちの余裕もできる気がする。

電車に乗ってみると席がちらほら空いていて、これもまたなんだかお得な気分になる。

人間同士の会話が全くない通勤電車とは異なり、昼間の電車内では様々な音が聞こえてくるのである。

赤ちゃんは泣きわめき、でっかいスーツケースを従えた外国人たちの笑い声が響く。

むしろ黙って携帯電話を触っている営業系の人たちの肩身が狭そうだ。

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おつかいで外に出るときは、昼食を外で食べてゆっくりしてから先方のところへ行ってもいいよとも言われている。

だから普段はお弁当だけれど、この日はときどきちょっと早めに出て、外食したりしている。

スーツを着た人々に紛れて、トンカツ定食を頼む。

昼休みなのもあってお客さんの入れ替わりが激しいし、書類を持って行く業務もあるのでご飯をいつもより早くかき込み、でも美味しさに満足しながら店を出る。

これもふだんとは異なる、私にとっては非日常のひとときであり、楽しみのひとつである。

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書類の中身は秘密・・というわけではないものの、重要書類なのは間違いないので、道すがら何度もカバンの中を確認する。

うっかり入れ忘れてないか、歩く途中で落としてないか、スリにあっていないか・・・

ドキドキしながら責務を果たすのである。

なにせ、この書類によって、人の人生が変わったりする。(大げさでもなかったりする)

私が道中おどおどして怪しい人物になっていることは間違いない。

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夏の外は地獄である。

届けるのは昼間。

太陽がギラギラ照りつけてアスファルトからむんむんと熱気がたちのぼってくる、灼熱の時間である。

しかも届け先の企業は駅からちょっと歩いたところにあるから、到着した頃にはもれなく汗だくになっている。

冷感シートも全く役に立たない。

拭いてスーッとしているのに、汗が噴き出すという、人体の不思議を垣間見る時間である。

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外出は、私にとっては気分転換にもなるけれど、いつものデスクワークの仕事よりも体力が必要なので大仕事でもある。

書類を無事に先方に渡し終えると、緊張がゆるみ、とたんにどっと疲れを感じたりする。

だからおつかいのある時はきまって、自分にご褒美をあげることにしている。

それは会社の近くにあるスタバでトリプルエスプレッソラテ(注文のたび舌を噛みそうになる)をテイクアウトすること。

ふだんは外にわざわざ出てコーヒーを買ったりしないから、贅沢な気分を味わえるし、持ち帰ってパソコンの横に置くと、スタバの紙カップがオシャレで神々しく見えるのである。

おつかれさま。よくがんばったね。

自分を褒めながら、お気に入りのエスプレッソラテを味わう。

これでおつかいの業務は完了である。

大変だけれど、どこか気分転換にもなる。


緊張感とトンカツ定食。

弛緩とエスプレッソラテ。

おつかいという業務は、私に非日常をもたらしてくれる、特別なお仕事なのである。

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