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みたぐね、めげ???

「みたぐね、めげ」とは、岩手のとある地方の方言で
「ちょっとブサイクちゃんでも、かわいいとこあるよ」
という感じの意味です。


5才の私は、その日も廊下の鏡にへばりついていた。
ちょっと高いところにあるのでうんとつま先立ちを
しないと自分の顔が映らない。

白いタイツがお決まりのように足首にたまり、ビヨン
ビヨンとなっているのも気に食わず、でもお気に入り
のプリントのワンピースを着て前髪をすっかり梳かし
てもらってつやつやの天使の輪を確認し。

いつものように鼻に洗濯ばさみを付けてみる。

何かの絵本で読んだので、この頃のお気に入りだった。

これで本当に鼻が高くなるとは、5歳児でも信じてはいな
かったが、何もしないよりはいいと思っていたのだった。

洗濯ばさみがちゃんと自分の鼻をつまんでいることを何度
目かの背伸びでやっと確認し終えたとき、父がやってきた。

いつも日曜日は自分の趣味の釣りに出かけるのでめったに
家にいない父が、はなぜか家にいた。


「ん?何してた?」

「お鼻つまんでた」

「どうした?」

「こうすればお鼻が高くなるんだって」

「あおちゃんの鼻はまるくてかわいいよ」

「丸いから、やなの」

「どうして?」

「あおちゃん、美人になりたいの。美人だったら劇の
主役にもなれるし、きれいなドレスの役になれるもん」

私は、幼稚園で、クリスマス会の劇の役は「たぬき」
になったのが気に食わなかったのだ。かわいくもない
あの子が主役の「マリア様」をやる。

なんでマリア様をやりたかったか?というと一番きれ
いなお洋服を着られるからに決まってる。
ママはきっと薄い水色のドレスを買ってくれるだろう
し、頭に白いベールをかぶせてもらってピカピカの金
の輪をはめてもらえる。

そうじゃなきゃ、英語教室の発表会で、鶏の役なんか
じゃなく、お姉ちゃんみたいに主役の女の子の役をや
りたい。

あおちゃん美人だったら主役になれたと思う!

そうかそうか。

父は優しく私の頬を撫でました。

「あおちゃんは美人になりたいのかな」
「うん。すっごく」
「じゃあ、美人で性格悪ーい子と、ブス子ちゃんだけど
、性格がいい子とどっちになりたい?」

「性格悪くても美人!」と言いたかったが、パパの望む
答えじゃないのはわかってる。ふくれて口をへの字にす
る私に父がかけた言葉が

「みたぐね、めげ」だぞ。

「・・・???」

「なにそれ」
「みたぐね、めげってのはな、ちょっとかわいくなくて
も、にこにこしていればかわいく見えるんだよってこと
だよ。だからあおちゃんもいつもにこにこしていようね」

「うん、わかった」

調子のいい私は、この時からずーっとみたぐね、めげで
ある。
本来にこにこしている子だったのでさして代わり映えする
こともなくいつも通りにこにこしていた。

そして、ずっとこの言葉を誉め言葉だと信じていた。
つい、何年か前、友達に話すまでは。

誰にもこのエピソードを話す機会もなく、特別話す内容で
もないし、自分の中にとっておいたのだが、ある時ふっと
この話題を出すシーンがやってきて。

「ああ、それってあおちゃんのお父さんが、かわいそうに
思って言ってくれた言葉なんだね」
って言われて初めて「思っていた意味と違うの?」
ってことに気が付かされた。

「ブスな娘を不憫に思っていってくれたんだよね」
なぬ?

「違う違う(あお、心の声)パパは私のこと大好きだった
し、いっつもかわいいかわいいって言ってくれてた」

「いや、だから、娘のことはかわいいんだってば」
「えー?違うの?私かわいそうと思われていた?」

「まあ、そうかもね~」

がーん。

そんなー。

今は亡き父に聞きたい。

パパ、あの時私のことかわいそうだって思ったの?
違うよね、いつも可愛いかわいいってかわいがって
くれていたもの。


あの日以来何十年も私を支えた言葉。

私にとって(あおは正解中で一番かわいい子だよ
byパパ)なことば

「みたぐね、めげ」


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