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【3月号11本目】目指せ軟着陸・2 ~パチンコ業界未経験なのに閉店予定のホール経営を任された件~

第二話・店長やります

 パチンコ屋の開店といえば、軍艦マーチと共に店内へ走り込む群衆。そんなイメージを抱いていた大成は、パーラーアオイの静かな開店にまず驚いた。音楽は無し、客も無し。あるのはパチンコから出るアニメ声のみ。

 二ヶ月前まで働いていた家電量販店ならまだしも、何も分からない業界で店長なんてできるだろうか。運営マニュアルも無い、本部機能も無い、こんなパチンコ屋で。

 不安の中モニターを見ると、主任の誠は店内をチェックし(何をチェックしているかは分からないが)、翔太は入口付近で、来もしない客へ挨拶すべく棒立ちになっている。そしてもう一人のスタッフ、アルバイトの美咲はカウンターの中でタバコを補充していた。

 この暇さなら昼まで待つ必要もないだろう。大成は事務所に備え付けてあるマイクを手にした。

「主任、チェックが終わったら事務所へ」
「了解です」

 数分後、ノックの音と共に誠が事務所へ入ってきた。うやうやしく頭を下げる。

「失礼します」
「今後についての話を兼ねて面接をしましょう」
「面接、ですか」

 二人は来客用のテーブルを挟んで対座した。

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「当面のことなんですけど、遅番は副店長に任せます。早番はしばらくの間、僕が店長職を代理します」

「はぁ」

 誠は眉間にシワを寄せ、小さな不快感を示した。そんな顔をされても困る、父からの命令だから致し方なかろう。年下の部下というのはやりづらいな、と、大成は思った。

「主任も知っての通り、僕はパチンコ経営については素人です。皆さんの協力をぜひ仰ぎたい」

 いきなり大上段から命令せず、ベテランのプライドを保ちつつも協力を仰ぐ。それこそが〝デキる上司の部下操縦法〟だと、以前何かの本で読んだ。

「それはいいんですけど、設定はどうしましょう」
「設定?」
「ええ。パチンコの釘は副店長、パチスロの設定は店長が決めていました」

 大成は目をしばたかせた。

「副店長が深夜に釘を叩き、店長はそれを次の朝に補正します。その後で設定を決めて、私は指示通り各台の設定を変更する流れです」

 そうだったのか。なぜ誰も教えてくれなかったのか。

「設定を決めるのは大変な作業?」

 そう訪ねると、今度は誠の方が目をしばたかせた。

「いえ、作業そのものは大変ではありません。ただ、設定一つで粗利は大きく変わりますし、お客様の心の機微を掴んだ設定を心掛けねば稼働は落ちます」

 大成は、大きな思い違いをしていたことに気付いた。パチンコもパチスロも、利益を抜くと決めたならば、商品を値上げするかのように低い出玉率で放置すれば良いと思っていたのだ。

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