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大雨の中で 猫さん

 翌日は大雨だとわかってました。でも、行きたかった河井寛次郎記念館に向かいました。祇園と京都国立博物館と五条坂の間にあり、土地勘のない人には行きづらい場所です。登り窯の遺構がある場所でもあり、じっくり見たいところでもあります。

 写真でもわかると思いますが、一見普通の古い京町屋に見えます。ところが中にはいると吹き抜けと離れやがいくつもある近代建築です。京都は、町屋が結構そういう改造があり、訪れるとびっくりすることもあります。

 大雨の中、見に来ている人はいるのだろうか。それは中の人も同じだったらしかったです。ほっとされていました。なんと、猫さんもお出迎えです。とても、美しい猫さんです。お声がけをして、そっとご挨拶しました。

 受付の方が、もごっと何事かおっしゃってました。聞き直してみると、あの猫写真の大家、岩合さんに写真を撮ってもらったとのこと。ちらっと、後ろを振り向くと、河井寛次郎作品とコラボした猫さんが、美々しく映っている写真が、飾ってあります。そして、チケットの手続きをしているうちに、猫さんは、ひっそりといなくなっていました。お客さんが来るか、心配していたようです。

 途切れなくひとりづづお客さんが訪れていました。よかったね。こういう日だから、普段行けないところでじっくりアートをみたい。そういう人は、必ずいるのだと心強いです。私が若いころは河井寛次郎をはじめ、民芸運動の作品は人気がなく、それでかもしれませんが、「暮らしの手帖」廃刊かなどと噂されていたころでした。何しろ、少女漫画の舞台のほとんどが、「ベルサイユのばら」なんかの西洋が多かった時期です。

 最近になって、東京の日本民芸館を訪れたりして、沖縄や韓国の美術なんかのエキゾチシズムを取り入れた、日本固有の古い生活雑貨の再評価運動だったんだなあと感じました。今になると、とてもモダンにみえます。廃れたものにも見えますが、意外と今のデザインに微妙に影響していると思っています。無印なんかそうかな。

 作家というよりは、職人よりでありたかったろう、河井の作品はより完璧なフォルムをめざすことで普遍性を得ようとしていると思います。そして、年代のわからない登り窯、近くの人が共同で使っていたそうですが、古くからの、焼き物の里、五条の古い風景の保存も、ここに住んだ目的だったんでしょう。回廊に囲まれた坪庭の緑が生き生きしています。この季節に来て、良かったと思いました。

 大雨にずぶぬれになりながら、バス停でガラガラのバスに乗ります。そして、京都駅に向かいます。昨日、歩いた商店街で廃業らしい老舗バーをながめながら、土砂降りのなか、雨戸を下ろしたがらんとした祇園の大通りを、バスで記念館に向かいながら、確かなものはきちんと生き延びてると確かめた旅だったと思います。


 

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