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民主主義はややこしい

 うちのような田舎の本屋さんでもベストセラーになってて、読んでいる人も多いので、今更の感想だと思うのです。まあ、今、単行本を買って読む人がものすごく減っているので話題の本ってなんだろうね。だから、今だからとも思うのです。

 「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」読んで、民主主義って、ほんとややこしいなって感じました。今、イギリスは多民族国家になっていて、社会的な格差が広がってもいて、不満がたまっている社会になっている。そこで、どう自分の立場を表現して、差別と闘っていくかが、公立中学に進学した日英の両親を持った少年の日々のいとなみで描かれていきます。

 東欧からの移民の少年が黄色人種や貧乏人を差別する言動を平気でする。父親が社会的に成功しているので、出身地の差別感を引きずっていることが修正されないで、もろに出てしまうのですね。そうすると先生たちに問題視されて、いじめられっ子になってしまう。

 学校でアフリカ移民一世の子供たちがいるので、女性性器の削除は体によくないと授業をすると、子供たちの中で、アフリカに里帰りした子はされたんじゃないかと噂が立つ。で、バザーに参加したとき、母がうっかり一世の女性に、里帰りされたんですねって話しかけると、差別者扱いされる。そういうことの繰り返しなんです。でもね、前の男の子がそうなんですが、口に出すことによって、仲間に考えが修正もされていくのです。

 息子さんはアイルランド系カトリックの父を持っているので、成績がよく、階層が高くて余裕がある、おだやかな家庭が多い、もめごとの少ない、カトリック系の学校を選べたんですけど、そこでは成績の差というかたちで、見えない形で親の経済格差がほったらかされている。グループが固定されて、差別が修正されない。だから、黄色人種の母への差別が見える彼は、優秀であることで、見えない差別が緩むだけの学校を選ばなかったのでしょう。

 日本で考えてみると、ゲイのマンガ家の田亀源五郎さんが「弟の夫」で描いているんですけど、日本人は、直接には差別は言ってこない。でも、子供に、あの人たちは怖い人だから、遊びに行ったらだめだとかいう。どう怖いか説明されなくて、情緒的に言ってしまう。で、日本人は察する能力にたけてるから、なんとなく差別してしまう。あとで、理由を知ると、親を愛しているがゆえに差別を肯定してしまう。立場の上の人が概ね間違ってないはずだから、理屈を言うなって社会なんですね。成績で人をはかるカトリック校の問題と一緒で、穏やかな社会なんだけど、差別に鈍感になってしまうと思います。だからでしょうか。修正されることも少ない気がします。

 イギリスなんかでは、親は差別の理由を言語化しないといけない。そこで口に出てしまうのですけど、議論が起こる。まあ、しじゅう、やかましいのでややこしい。それに、実際、言語化することで、差別を起こすみたいなことがあって、アフリカ移民のことみたいなことも起こる。でも、それがよくないっていうことがみんなの共通認識だと、されそうな女の子が学校のみんなが味方だと、きちんと自己主張できる余地ができるかもしれない。その繰り返しなんですね。

 今の世の中のようにグループ化が目立つ世の中になると、立場の強いものの鈍感が広がって、搾取が目立たなくなる。そうなると、立場の弱い人々から、上からの改革が強い、独裁的なやり方が歓迎されるようになってる。でも、生身の人間がやることですからね。大きな間違いも起きてしまう。王様が廃れたのはその歴史の繰り返しだから。最古の民主主義国家と思うアメリカは、大統領制を8年までとして、トランプがでたらめでも、社会の大きなものは揺るがない。まあ、自己主張が許されるってことは、勝手もゆるされるってことで大変だなって思う。コロナの問題とかでは、考えてしまうけど。

 イギリスの公立学校では自分を表現するための演劇の授業があったり、シティズンシップ・エディケーションのいう授業もあるらしい。日本では公民教育とかと訳すそうです。まず、息子さんは、シンパシー(sympathy)という、かわいそうという感情を含む言葉とちがうエンパシー(empathy)という「理性的に対等に自分と違う考えの人と感情や経験を分かち合う」概念から学習を始めている。血を流して民主主義を勝ち取った国だからかな、違いますね

 日本はこういった授業は難しそうだけど、あったらいいなって思う。もちろん、イギリスの先生たちにも党派性あるし、違う意見を認めようという授業なので手間がすごくかかると思うけど。他者と折り合って、協力しあう技術って貴重ですよね。日本も格差による強い差別や現実的な移民の流入が始まっていたりして、まるっきり人ごとではないなっていうのが、この本が売れたわけかなって思う。昔から、人間は、こうしてもめてきたわけだし。

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