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私が好きな詩

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#中原中也

詩を読むこと

詩を読むこと

詩人の伊藤比呂美の本を読んでいたら「どうしようもなくなったら詩人になりなさい」とあった。瀬戸内寂聴さんも「小説家になりなさい」って言うらしいから半分冗談だと思っている。

それぐらい生活が大変だった時代、アートに生きることは無頼だったと思う。今回、好きな詩についてちょこっと書きたいなって思ったって、つい、調べ物をしたら、作品と作者の人格は違うと頭の中で強調しないとならなかった。でも、調べていくと、

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悲しみ

悲しみ

夏の夜の博覧会は、かなしからずや
中原中也

夏の夜の博覧会は、哀しからずや
雨ちよと降りて、やがてもあがりぬ
夏の夜の、博覧会は、哀しからずや

女房買物をなす間、
象の前に僕と坊やとはゐぬ、
二人蹲(しやが)んでゐぬ、かなしからずや、やがて女房きぬ

三人博覧会を出でぬかなしからずや
不忍(しのばず)ノ池の前に立ちぬ、坊や眺めてありぬ

そは坊やの見し、水の中にて最も大なるものなりき、かなしか

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棄てられない

棄てられない

月夜の浜辺

月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際(なみうちぎわ)に、落ちていた。
それを拾って、役立てようと
僕は思ったわけでもないが
なぜだかそれを捨てるに忍びず
僕はそれを、袂(たもと)に入れた。
月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちていた。
それを拾って、役立てようと
僕は思ったわけでもないが
   月に向ってそれは抛(ほう)れず
   浪に向ってそれは抛れず
僕はそれを、袂に入れた。

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