祖母は旅立ち、孫はじっと考え、踏み出した。
僕は祖母に触れることを決めた。
たまにしか帰らないから、気にかけている想いを伝えたかった。
ようこそいらっしゃいました。
迎えてくれた祖母の腕に触れるようにした。
お疲れでしょう、ごゆっくりしていってくださいね。
居間に移動する際、祖母の背中に触れるようにした。
数年前から祖母はだんだんと弱っていた。
どちらにお住まいですか?
東京です。
1日に何度も同じやり取りをした。
そして祖母は僕の名前も忘れた。
客人として歓迎された。
父の名前で呼ばれることもある。
それでも僕は、祖母に触れるようにした。
体に触れると、目が変わる気がしていた。
いやたしかに触れた瞬間に変わっていた。
僕であり僕じゃないなにかを見ながら。
固有名詞を忘れても、
体に触れるその意思疎通は、
覚えていた。
先日、祖母が旅立った。
僕が新たな生活に踏み出そうとしたタイミングだった。
もう心残りはない。
祖母は最後に、僕の背中に触れ、後押ししてくれたのだと思う。
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