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スワロー亭のこと(13)地の利の縁

スワロー亭は小布施町のおよそ真ん中あたりにある。北を町立美術館に、南を町で唯一の中学校に、西を町で名だたる飲食店に囲まれている。敷地に隣接する中学校の職員駐車場は、学校が休みとなる土日祝日は一般に開放され、自由に停めてよい駐車場として利用されている。こうした立地のため週末などはとくに、店の周囲を観光客や飲食客がけっこう大勢行き交っている。

また店のすぐ前の美術館駐車場は、毎年8月12日には盆花を売る「お花市」というイベントのメイン会場となり、地元のバンド数組が朝からかなり念入りなリハーサルをやり、そのままほぼ途切れなく本番に突入し、夜10時ごろまで大音量の演奏が続く。通りにはビールや軽食を売る露店も並び、お盆休みで帰省した人たちを含めてたいそうな人出で賑わう。お花市に包囲されるこの日は、もう「年に一度の地域奉仕」と割り切って、お花市終了まで店を開け、休憩所的に使ってもらっていいことにしている。

あまりにも真ん中すぎる立地に、引っ越してきた当初はやや戸惑いもあったし、「自分たちのような新参者がこんな真ん中に住んでいいのか?」と気が引けた。しかしこの立地ゆえに、美術館などを訪れた人がなんの情報もなしに通りすがりに立ち寄ってくださることもある。なかにはその後、長いおつきあいとなる人たちとの出会いもあった。

『コトノネ』の編集長、里見喜久夫さんとのご縁も、この場所で店をやっていたからいただけたものだった。『コトノネ』は「社会をたのしくする障害者メディア」のキャッチフレーズで発行されている季刊誌。2020年6月現在で34号までをリリースしている。デザインが美しく、写真がカッコよく、読ませる記事や刺さる言葉がいっぱいの上質な雑誌だ。

2016年の夏か秋だろうか、その里見さんはカメラマンさんと一緒に小布施の福祉施設へ取材に訪れた。たまたまうちの前を通りかかり、なんの気もなしにふと看板を目にされたのだろう、お二人が店に入ってこられたのだった。

店番をしていた奥田によれば、里見さんは書棚を端から眺め、「ほほー!」「わー!」「おお、この本もある!」と楽しそうに感嘆の声をあげておられたという。そして去り際に、取材のために小布施へこられたこと、雑誌をつくっておられること、これから隣のお店で食事をとる予定であること、大阪出身であることなどを話された。同じ大阪出身ということでどこかなじみがよかったのだろう、奥田も里見さんに好印象をいだいたようだった。

その晩、町に投宿された里見さんは、翌日『コトノネ』のバックナンバーを3冊ほど届けてくださった。ふたたび対面した奥田は「この近くにおいしいコーヒー屋さんはありませんか?」と尋ねられ、徒歩10分ほどの場所にある店を紹介したという。

見本誌としていただいた『コトノネ』を奥田も中島も気に入り、うちで扱わせていただくことにした。

こうしてこの年の12月、できあがったばかりの『コトノネ』VOL.20がスワロー亭に納品された。

販売をスタートした3日後には、洋服を仕入れている快晴堂の展示会で東京行きの機会ができたのに合わせて、『コトノネ』編集室を二人で訪ね、里見さんと編集スタッフのHさん、奥田、中島の4人で近くのお店でランチをいただいた。

里見さんは元来デザイナーだが、『コトノネ』を創刊されて以来、全国津々浦々を自ら取材しておられる。もともとのお人柄もあるだろうし、取材で培った作法もあるものと思うが、対面する相手の言葉を引き出すのがお上手な方だ。相手のひとこと、ひとことを聞き逃すことなく、明るく驚いてくださる。「お上手」という言葉では、なんだか軽くなってしまう。底のほうに、向き合う生命に対する畏敬のような念がある。そこから発する「明るく驚く」リアクションなのだろう。

話すほうはうれしくなって、もっともっとしゃべりたくなってしまう。もともと自分から積極的に会話をリードすることがない奥田と中島が、里見さんの話術に乗って気持ちよくしゃべらせていただいた。こういうふうに、里見さんのインタビューを受けた人たちは気持ちよくしゃべるのだろう。その気持ちいい空気も『コトノネ』には封じ込められているように感じる。

この日の面談で『コトノネ』バックナンバーもあるだけすべて扱わせていただくことに。1週間後には、すでにソールドアウトとなっていた創刊号を除くVOL.2からVOL.19までがずらりとスワロー亭店頭に並んだ。

自分たちの予想以上に、この雑誌はお客様の心をとらえ、古本屋に置かれた定価販売の本であるにもかかわらず、次々に売れていった。内容が魅力的であれば、値段はさほどの問題ではないのだ。

『コトノネ』の販売店には、一般的な書店と「軒先書店」の2種類がある。軒先書店は、本来書店ではない店や施設の「軒先」で販売しているもの。里見さんが取材に訪れた小布施町内の福祉施設も軒先書店のひとつとなっている。

スワロー亭は古本屋だが、里見さんが「本を売っているのだから本屋さんです」とおっしゃり、一般書店枠で販売店一覧に名を連ねている。VOL.20から参加して、次のVOL.21に新設された販売店を紹介するコラムの1回目でスワロー亭を紹介していただいた。そのふんわりとした巻き込み方も絶妙だった。

スワロー亭のような小さい店にも、新刊が出るたびに『コトノネ』ファンがわざわざ買いにきてくださる。独特なパワーをもった雑誌だ。

(燕游舎・中島)


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本や各種印刷物などの企画・編集・執筆・デザインをはじめ、いろいろ制作をおこなう燕游舎(えんゆうしゃ)と、燕游舎が運営する古本屋スワロー亭のnoteです。
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