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スワロー亭のこと(14)マンスリーライブ開幕

2016年の暮れ、晩の食卓を囲んでいたとき、中島にふとアイディアが浮かんだ。

「あのさあ、年明けから月イチでライブやったら? 基本的にソロで。」

中島もなかなか面倒くさいひねくれ者ではあるが、奥田は「八方美人のアマノジャク」を自認している。とりわけ中島からの提案や助言は、まっすぐに受け取ることが少ない。そういう奥田の傾向にもう慣れていたから、この提案もダメ元と思って伝えた。

しばし思案した奥田は、答えた。

「そうやなあ、やろか。」

拍子抜けするくらい素直な返答だった。なにかが奥田のなかで符合したのかもしれない。

これは中島の想像に過ぎないが、ひとつには古本屋がまだまだ認知されず、全般的にヒマな時間が多かったこと。これといった宣伝活動もしていない地方の小さい古本屋がオープン早々から賑わっていたら、そのほうが不思議なくらいだが、店はたいがい静かだった。奥田はその時間をもてあまし気味だったのではないだろうか。

もうひとつには、小布施に転居する以前は京都や大阪、東京など都市部にずっと住み暮らしていた奥田にとって、小布施にきてからの生活がやや平板に過ぎた面もあったのかもしれない。県庁所在地である長野市あたりでは、ライブハウスもそれなりに点在しているし、独自の音楽活動を展開している地元ミュージシャンもいる。しかし長野ではまだそのようなネットワークも築けていなかったし、ライブやイベントへの出演機会も小布施に来てから減っていたような気がする。そういう方面のフラストレーションがすこしずつ蓄積してきていたことも考えられる。

さらにはスワロー亭という場所の可能性を試してみたい気持ちもあっただろう。

どのように合点がいったのかは定かでないが、とにかく提案は受け容れられ、2017年1月から1年間、奥田は単独マンスリーライブを挙行することになった。

第1回ライブの開催日を2017年1月31日に決めた。それまでの約1カ月間、奥田は楽器のメンテナンスと音出しにかなりの時間を割くようになった。

奥田は楽器を自作し演奏している。ヒョウタンを種から育て、実を収穫し、中身を抜いて乾燥させ、ひとつひとつの形状を生かして弦楽器や管楽器、打楽器などを制作、演奏するということを二十数年にわたりやってきた。ほぼ毎年、ヒョウタンの栽培もおこなっており、実を収穫すると、新しい楽器の制作チャンスも増える。

ヒョウタンからつくった楽器は、ヒョウタンの脆さゆえによく壊れる。弦の張力に耐えきれず陥没したり、落とす・踏みつけるなどによって割れたり、ということも珍しくない。だからライブ出演時には必ず木工用ボンドやテープなどを携行する。リハーサル中に壊れた楽器をその場で修理して本番に臨むこともあるし、本番中に不具合が生じて、そのまま演奏しつづけた場面もあった。

そのようなことがなるべく起こらないように、ライブ前には念入りに楽器をチェックし、あやしい部分があれば補強したり、そのときの鳴り方によっては改造したりもする。

修理して鳴らす。改造して鳴らす。改造の結果がいまひとつだった場合にはさらに改造を加える。ゼロから自作した楽器なので、どのような細工も自由だ。

これまでに何度となく重ねてきたそのようなプロセスを今回も踏みながら奥田は本番に備えた。

ライブのタイトルを「自家製瓢箪楽器博覧会」とした。いくつあるのかはっきりとはわからないが、とにかくたくさんある歴代の自作ヒョウタン楽器を、まだちゃんとお見せしたことのない人たちにも紹介しようという気持ちも込めて。楽器の分類ごとに開催することとし、第1回は「弦楽器の巻」と決めた。音の鳴るものならなんでも鳴らしてみるし、なにを鳴らしてもそれなりに音楽にしてしまう奥田だが、なかでも弦楽器はいちばんの得意ジャンルかもしれない(本人に確認したわけではないので、違うかもしれない)。

前回、野村誠さんのライブをやったときのように、小上がりをステージにする案もあったが、今回はY先生から譲り受けた大きいダイニングテーブルを囲んで、演者とお客様が輪をつくるような配置とした。これまでの奥田のライブは、楽曲を次々演奏し、たまにMC、というようないわゆる「ライブ」というよりも、楽器の成り立ちなどを話しながらそれぞれの楽器の音色を聴いてもらう「音楽漫談」のようなスタイルが多かった。今回もそのイメージで組み立てたのではないかと思う。

それほど広く告知をしたわけではなかったが、当日は近隣の友人知人が集まってくださった。なかにはグッドタイミングではるばる滋賀県からご参加くださった方も。

20年前につくった楽器から最近の作まで、新旧おりまぜて紹介し、それぞれの音を披露。しゃべり半分、演奏半分で約1時間。

古い付き合いの友人たちは、ある程度奥田の楽器や音楽スタイルをわかっておられるが、今回はほとんどこの方面での接触機会がなかったお客様ばかりだったので、奥田にとってはもう飽きるほど話してきた内容だったと思うが、みなさんは新鮮な驚き反応をしてくださり、「大盛り上がり」でこそなかったものの、しずかに穏やかにのんびりと、ほのぼの愉しい時間となった。

「ライブ」という言葉から想像されるものとは違っていたのではないかと思うが、楽しんでいただけたようで、ホッとした。

「予想以上にお客さんが集まってくださって、いい反応をいただけたので、安心してライブができた。心地よかった」と奥田。

冬の寒い晩。通常18時で閉店となるスワロー亭だが、陽が落ちて、あたりが暗くなってからの初営業。「夜のスワロー亭」という新しい可能性が芽生えたのも、この日だったのかもしれない。

スワロー亭の新企画マンスリーライブは、こんなふうにして幕をあけた。

(燕游舎・中島)

<第1回マンスリーライブ動画>

https://www.youtube.com/watch?v=4e6xPS5MgDI


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本や各種印刷物などの企画・編集・執筆・デザインをはじめ、いろいろ制作をおこなう燕游舎(えんゆうしゃ)と、燕游舎が運営する古本屋スワロー亭のnoteです。
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