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スワロー亭のこと(15)文明の利器で芸幅拡張

自家製瓢箪楽器博覧会と題したスワロー亭のマンスリーライブはその後も続いた。

2月27日、弦楽器の巻その2。

3月28日、吹奏楽器の巻。

4月24日、打楽器・音具他の巻。

4月、タイトルに「他」がついた。

つまり、そろそろ素材が出尽くした感があった。

さて、では5月の第5回をどうしようか。

そのころ奥田は、あるひとつの決断をしようとしていた。

ループマシンの購入である。

これは楽器演奏をしながら、自分の好きなタイミングで録音開始・録音終了、そして即座に再生でき、しかも音を重ねたいだけ重ねられる、という装置。これがあれば一人でいくつもの楽器を「合奏」することができる。

ループマシンの存在を知って「おもしろそう」と感じていた奥田は5月、ついにこれをネットショップで発注した。数日後、品物が到着。

マシンを手にした奥田は「これでやっとライブができる」と思ったという。

これまでにもライブはやってきた。それでは「やっとライブができる」とはどういうことか?

奥田にとって音楽の大きな楽しみのひとつは「音色を重ねる」ことだった。複数の音を同時に発して、その混ざり合い融け合うさまを味わう。複数音の重なり合いを奏で、また聴くことが心地よいのだという。

第1回から第4回までのマンスリーライブでは、一度にひとつの楽器の音しか出すことができなかった。共演者がいればよいが、この年のライブはソロでやることにしていた。すると奥田の好む「音色を重ねる」ことはなかなかできない。

しかしループマシンがあれば、ソロライブでそれが可能になる。楽器をつぎつぎに持ち替えて、録音し、再生し、再生した音に別の音を合わせてさらに録音し……というプロセスを積み上げていくことによって、音色を幾重にも重ねていくことができる。

奥田にとって、これは画期的なできごとだった。「やっとライブができる」、このひとことに、口にこそ出さずにいたもののこれまでひそかに奥田が抱えつづけていたフラストレーションのほどがうかがえる。

ループマシンを入手した日から、奥田は一人、部屋にこもってひたすら楽器を弾きつづけた。この新しいおもちゃがおもしろくてしかたがないようだった。

録音スタート時は足でスイッチを押す。手では楽器を演奏するからそうなるのだが、当初はタイミングを合わせるのに手を焼いていたらしい。

くる日もくる日も、時間さえあればループマシンと一緒に楽器を鳴らしつづけた奥田は、やがて自分なりの「いける」線をクリアする日を迎えた。手応えを得て、第5回のマンスリーライブからループマシンを導入。これまで「楽器の分類」を各回のテーマに据えていたが、このときから音楽ジャンルがテーマとなった。

そして迎えた2017年5月29日。この日のテーマは「ひょうたんジャズ(イメージ)」。深い意味づけはなく、そのときの気分で設定したようだ。

マンスリーライブでは毎回、中島が動画と静止画像を撮影していた。動画はライブ終了後に奥田が編集し、ダイジェスト版をYoutubeにアップしている。

当日の動画を見ると、奥田はのびのびと楽しそうに演奏している。この日のために練習を積んできたループマシンをフルに活用し、弦楽器や打楽器や管楽器をつぎつぎに登場させ、ピアノまで動員して好きなだけ「音色を重ね」、そのとき、その場に現出させたい音楽世界を好きなように描き出している。

小布施に越してからしばらく、頭を坊主にしていた奥田が、このときまでにはふたたび髪を伸ばし、かなり限界に近いレベル(笑)に達していた。カタギの勤め人には見えないであろう髪型に、この日の奥田は会社員時代の白いワイシャツ、水玉のネクタイ、そしてスラックスといういでたち。本人にとってはおそらく「その場の思いつき」くらいの気持ちで選んだステージ衣装だろうと思うが、今、動画を見返してみると、気持ちにある種のハリがあったのではないか。なんとなく、そのように感じられる(気のせいかもしれないが)。

「うーん、思ったよりうまくできたかなあ……。」

約3年前のライブについて、本人に感想をきいたところ、開口一番の言葉がこれだった。過去についてはあまりクリアに覚えていないらしく、感想もややぼんやりしていたが、つづいて次のように振り返った。

「この回の『ジャズ』のようにジャンルを決めることで、演奏することに対する恥ずかしさがなくなる。奏でる音に向き合う自分の姿勢が定まると同時に、自分にできることが拡がり、より自由になれるように感じる。」

ループマシンの登場によって、奥田の言を借りれば「より自由」な音楽を味わってもらえる場となったマンスリーライブ。その後もこの文明の利器とともに、6月26日「なんちゃって民族音楽」、7月24日「アンビエント・アシッド・ひょうたん(イメージ)」、8月31日「エスノ・ファンク・ひょうたん(イメージ)」、9月30日「エスノ・ファンク・ひょうたんアゲイン(イメージ)」、10月15日「Happy birthday to me 公開練習・曲づくり」、11月27日「和風〜」、12月9日「2017総集編」と展開していった。

テーマ名を聞いた奥田本人が「あの回は名前だけだった。やっていたことはテーマとかけ離れていた」と回顧した回もある(笑)が、産みの苦しみのようなものを味わいながらも1年間、12カ月にわたり、ひとまずは走り抜いた。

この経験をつうじて、自宅の一隅に設けたスワロー亭という場所について、まだまだいろいろな可能性があるだろうことを予感した。奥田も「自分のハコをもてば、どんなことでもできるな」といっている。

(燕游舎・中島)

<2017年5月29日マンスリーライブ・ダイジェスト動画>

https://www.youtube.com/watch?v=CCCq-yLQJmQ

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本や各種印刷物などの企画・編集・執筆・デザインをはじめ、いろいろ制作をおこなう燕游舎(えんゆうしゃ)と、燕游舎が運営する古本屋スワロー亭のnoteです。
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