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スワロー亭のこと(11)有言無言の交流

存在そのものをまだあまり世間に知られていないスワロー亭だが、それでも週5日営業していると、お客様がポツポツと立ち寄ってくださる。たまたま店が町立美術館の向かいにあるため、なかには観光に訪れてスワロー亭を発見して入ってこられる方もある。

蔵書は、バリューブックスから取り寄せる古本が柱。これはバリューブックスの在庫リストから自分たちで仕入れたい本をピックアップし、希望リストをつくって送ると、担当のIさんが希望の古本と、それらの周辺の本をスワロー亭のテイストに合わせて選び、送ってくださるもの。

奥田と中島の興味のアンテナに引っ掛かった本だけとなると世界が狭くなるので、このIさんのサポートは心強かった。毎回到着した箱を開けて「そうきたか〜」「スゴイところに飛躍したな〜」とIさんによるプラスアルファの選本を1冊1冊眺めるのが入荷時の楽しみでもあった。

そのIさんのプラスアルファセレクトの1冊に、ずっしりと重い大判の写真集があった。これを、芸術家のY先生から譲っていただいたテーブルの上にディスプレイ的に置いたところ、けっこうな頻度でお客様がページを開いて眺めるようになった。

自然界のさまざまな光景を独特の構図やアングルで収めた写真は見応えがあったが、定価が1万円近いその写真集は古本価格もそれなりだった。大きいし、重いし、価格も安くはないため、そう簡単に売れることはないだろうと思っていた。

ところが、これがある日、人の手に渡ることになった。胸中でひそかに喜び、同時に驚いた。会計を担当した奥田は「あっ、これ、買っちゃいますか〜」と口にしていた。

多くの小規模古本屋もそうだと思うが、新品を扱う一般書店と異なり、同一書籍が複数入荷することはそう多くはない。したがって「売れ筋商品」というものもない。店頭にある1冊が売れたら、その本はそれきり、ということがほとんどだ。

「ほとんど」というのは、なかには入荷とほぼ同時に売れてしまい、「えっ?」と思いながら、「ならば」と同じ本を再度仕入れたこともあったから。ちなみにその本は、再入荷分もほどなくして売れていき、3回目を仕入れるまでとなった。その本自体の魅力は当然あったのだと思うが、この店で売れやすいテーマや風貌だったのだろうか。

そういう不思議な展開はときどきあった。

たとえば書棚の掃除や整理をしながら、ふと気になった本を抜き取って手に取ることがある。そのまま元の位置へ戻すこともあるし、「向こうの棚に置いたほうが似合うかも」と別の棚へ移動させることもある。またテーブルなどの上に平置きをすることも。

すると、長いあいだずっと滞留していたその本が、その日のうちに売れていく、ということがある。テーブル上に平置きにした場合、表紙が露出するので存在感が増してお客様の目にとまりやすいということもあるだろう。しかし手に取ったあと、元の場所に戻しただけの本も、一度だけでなく何回か、手にしたその日か翌日くらいに売れていくということがあった。

これは単なる偶然なのかどうなのか? たしかなことは今もわからないし、スワロー亭はスピリチュアル系古本屋なわけでもないが、手をふれることによって、その本になにかが宿るのではないか。その「なにか」が、そこを訪れた人を誘い込む作用をするのではないか。そんなことを思ってしまった。

不思議とまでいわないが、ちょっとおもしろい現象もみられた。

バリューブックスからの仕入れ以外に、自分たちで独自に仕入れた古本や、個人的に買って読んだ本も、わずかながら店には並べていた。奥田と中島がそれぞれに、自分の趣味嗜好で選んだ本を、書棚のジャンル分けに合わせてランダムに並べていく。どこからどこまでが奥田の元所蔵本、どこからどこまでが中島の、ということは、書棚を見てもわからないようになっている。

それでも、お客様が一度に複数の本を買ってくださるとき、奥田リリースの本を選んだお客様は奥田リリース本で固めてくるケースがよくある。中島リリース本の場合も同様のことが起こる。興味の対象がかさなることは珍しくないのだろうが、3冊くらい固まってくると、これも偶然なのかどうなのか? と思いたくなってしまう。そして口にも顔にも出さないよう気をつけながらも、そのお客様にかすかな親近感をいだいてしまう。

営業品目や形態によって、店の運営者とお客さんとの距離の取り方はさまざまだが、スワロー亭はお客様から話しかけてこられない限り、それほどこちらから積極的にはたらきかけることは基本的にない。自分たちがプライベートで古本屋を訪ねたときも、店主と話し込んだり仲よくなったりすることはほぼゼロに等しいから、その逆だと思えばそれがいわゆる「ふつう」だと思う。

それでも、言葉を交わすこともなく、なんとなく心がかよい合ったような気がする瞬間はある(一方的にそんな気がしているだけという可能性もおおいにあるが)。店の運営者も人間。そういうときはやっぱりうれしくなるし、「もっとおもしろい店にしよう。仕入れもがんばって、棚づくりやディスプレイも工夫しよう」と心を新たにしたりもする。

(燕游舎・中島)

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本や各種印刷物などの企画・編集・執筆・デザインをはじめ、いろいろ制作をおこなう燕游舎(えんゆうしゃ)と、燕游舎が運営する古本屋スワロー亭のnoteです。
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