見出し画像

スワロー亭のこと(23)いろいろつくる

燕游舎およびスワロー亭をやっている奥田と中島はそれぞれ、店の運営以外のところでやっていることがある。奥田は学生・会社員時代から音楽活動をしており、ライブなども多数経験している。30年くらい前から瓢箪を種から栽培して実を収穫し、それを楽器にして演奏するという活動も続けている。石でハンコを彫ることもある。中島は取材・執筆や本などの編集をやっている。絵も描くし消しゴムハンコも彫る。機械には弱いが写真も好んで撮るし木彫りや縫い物もやる。スワロー亭の看板や店内表示、会計用のトレーは中島が彫ったもの。

この2名がいるとなんとなく本がつくれる。文章、写真、挿絵を用意し、それらを組み立て、印刷に出し、製本し、その気があれば販売までやれる。

そこで本をつくることにした。

中島が手書きブログというサイトで原稿をかいた。本文も挿絵も手書きで。それらを奥田がページに組んだ。印刷は印刷屋さんにやってもらった。刷り上がった紙を折りたたんで切って綴じる作業を自分たちでやった。

こうしてささやかながら本ができた。実体験にもとづくフィクション、題して『俺の和食』は2019年5月、リリースにこぎつけた。

つくるのって、おもしろい。

思えば奥田も中島も「売る」より「つくる」経験のほうが圧倒的に多い。つくるほうが楽しいのだろう。「売る」場面になると、どこか腰が引けてしまうようなところがあるが、「つくる」ときは躊躇がない(「つくらなければならない」ときはまた反応が異なるが)。

できた本に、ひとまず値段をつけたが、身近な人たちにはだいたい「これ読んで」と有無をいわさずプレゼントさせてもらった。

せっかく本ができたので店にも並べた。ときどき手にとって眺めてくださる方がある。なかには買い求めてくださるお客様も。

買っていただける喜びもさることながら、やはりつくるのが楽しい。

燕游舎で本をつくったのはこれが最初だったが、それまでにもグッズをつくったことがある。近所で開かれたイベントに古本屋として出店する際、「グッズも売ったらおもしろい」という話になった。折々に中島が描きためていた絵があったのでそれをバッジにした。

バッジはイベント後にスワロー亭で販売するようになった。それほど大きくは動かないが、ときどき思い出したように1つ2つ買ってくださる方が現れる。何種類かつくったバッジのなかには、ソールドアウトとなり増産したものもある。

シールもつくった。ストックの絵だけでは飽き足りず、シール用に描き下ろしも。

勢いづいて一筆箋や絵葉書もつくった。これらもちらり、ほらリとときどき売れていく。なんというか、スッキリと説明がつかないが、つくったグッズが売れることによって売上がたつことが嬉しいということもあるにはあるのだが、それ以上につくったグッズに値段をつけて店に置いたら買ってくださる方がいた、という一連の現象の流れがおもしろかった。まったく素人の感慨だが。

奥田はセルフで演奏、録音した楽曲をまとめ、これまでに2枚のCDをつくっている。2枚目のアルバム『とちうで、ちょっと』には値段をつけて販売するようになった。ジャケットは自分でデザイン、ペイントした。自分が出演するライブの会場では何枚か買っていただいている。

奥田は長年瓢箪栽培を続けてきた。そのうちのいくつかは楽器になっているが、収穫物のほうが点数が多いので、さしあたり中身だけ抜いて未加工のまま保管していた瓢箪の実がたくさんあった。とくに千成瓢箪という小さい種類。

ある日奥田がなにを思ったのかその未加工千成瓢箪にポスカで色をつけはじめた。それからしばらく、くる日もくる日も色をつけつづけていた。

そのうちに「手芸用品店に連れてって」といいだした。手芸店で奥田はキーホルダーやストラップ、ピアス、イアリングなどの金具を購入。ポスカでペイントした瓢箪にそれらの金具をつけ、売りはじめた。

瓢箪のなかでは千成は小さいが、ピアスと思って見ると大きい。ただ、中身は抜いてあるので軽い。

瓢箪ピアスに、女性のお客様の反応はよかった。複数買い求める方もいた。燕游舎のオンラインショップでも売れた。フラジャイルな商品なので梱包には気を遣った。奥田はアクセサリー本体は器用につくるが梱包はからっきしなので中島が担当。中島は「そんな特技がなんの役に立つのか」と本人も呆れる梱包好き。ただしおしゃれな「ラッピング」ではなく「梱包」部門専門。通販の梱包にはうってつけだった。

こんな調子で、分野が偏ってはいるが、ちょこちょこいろいろなものをつくるようになった。

たとえば手芸好きな人はつくるのが好きだからどんどんつくってしまい、最初は自分で使いはじめるが、多くの場合つくるほうが勢いがあり、使うほうはある時点で飽和状態を迎える。その後は家族や友人にプレゼントするようになる。それもやがて臨界に達し、どうにもならないストック作品が徐々に山脈を形成していく……というのがありそうな展開だが、幸か不幸か、いや幸いなことに、うちには店がある。つくったものを売る場所があることによって循環が生まれる。今後どのような動きにつながっていくのか、まだわからないが、この環境になんらかのポテンシャルは感じている。

燕游舎オンラインショップ

http://www.enyusha.com/pg47.html

(燕游舎・スワロー亭 中島)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?