「創造的に生きる」のはじまり
私は15歳からアート留学をして、芸大を出ているのに絵が描けません。
日本の芸大と違って、私の行った英国の大学はデッサンが入学条件のマストではなかったし、プロセスを重視していたので、大量のスケッチブックとポートフォリオで芸大に入学しました。
それでも、グラフィックデザイナーとして仕事をしながら「芸大出のデザイナーなのに絵が描けない」ことがずっと(今も?)コンプレックスでした。
そもそもは絵を描くことが好きで、アートを学びたくて高校から留学して、美術室に入りびたって夜までただただ絵を描いていました。
その当時、学校が長い休みになるたびに、友達と安宿に泊まりながらロンドンのロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの劇を観に行っていたのだけれど、アートの最終試験では、この劇のワンシーンを描きました。それは、これまで描いた中で、一番大きいサイズの絵でした。
試験の結果は「A」。
クラスで一人しか取れない「A+」は取れませんでした。今考えると馬鹿みたいな気がするけれど、この世の終わりかと思うぐらい、ものすごくショックでした。
自分にはアートしかなくて、それなのに英語も完璧で(現地人だから当たり前か)他の教科も万能な子(確か地理の成績がめちゃくちゃ良かった)にアートでも負けて、自分の存在って何なんだろう?と思ってしまいました。
「A+」を取った子が描いた絵は、リアルなカマキリでした。ものすごくリアルなのに色だけピンク。大きなカマを携えたその絵が今も脳裏に焼き付いています。
結果を知った時、私はアートの先生とクラスメイトの前で、自分でもびっくりするぐらい号泣しました。
そこから長い長い年月が過ぎ、大学を卒業し、グラフィックデザイナーとして働き、職種を変えながらも「表現」に関わる仕事をしながら、ずっと「絵を描く」ことを避けてきました。
2020年になり、アーティストの絵描きさんと知り合った。感じたままに色をキャンバスに乗せていく、勢いを感じる絵を描く人。一度、主催したオンラインイベントに参加しながら、その空気感を描いてくれました。
そこで、森のガイドをしている友人にお願いして、森の中でライブペインティングをしてもらう機会を作りました。真っ白なキャンバスに色が足され、みるみる間に描かれて行く様子を見ながら、一緒に行った子どもたちもキャンバスに好きなように絵を描いていきます。
子ども達のキャンバスを用意しながら、自分も描いてみようかという気持ちになりました。躊躇しつつ、子どもの様子を見つつ、一緒に描いてみたけれど、なんとも線が不安気で、すぐに子どもの世話に逃げて描くのを途中で止めてしまいました。中途半端な木の絵が描きあがり、久しぶりに手を動かして描いた感触とまったく自分の思った通りに表現できないもどかしさを想い出しました。
「絵を描く」には、ある種の集中が必要。
そんなことに気づきながら、人生が激変して行った2020年秋。この激変についてはさらに話が長くなるので、別の機会に書きたいと思います。
そして2020年末。
ふとしたきっかけで知った「創造的に生きる」というプログラム。正直、何をするかわからずに勢いだけで主催のこうすけさんに連絡をしました。
こうすけさんは、play with kodoという生命の鼓動を美しく可視化した世界を創り出すアートプロジェクトをされているアーティストです。
実は、このプログラムについて知る半年ぐらい前に、知人の投稿を見てこのプロジェクトのことを知り、とても興味を持っていたところ、別の知人につなげてもらったのでした。
こうすけさんは、私が知る人の中で最も人の助けを得ることができる人のひとりだと思います。「たすけてください」ということがとても苦手な私にとっては奇跡的に助けを請うことに長けている人です。
はじめてこうすけさんと話したのは、オンライン。壮大に落ちていく夕陽を画面越しに見せてもらいながら、「意図」について話しました。
私が伝えたのは「絵が描きたい」「手を動かしたい」ということ。
一人では描き切れない絵もプログラムに参加することで描けるんじゃないか?という想いを話しました。こうすけさんは、初対面だけどとてもニュートラルで、静かな染みるような存在感で聞いてくれました。
話しの中で、印象に残った言葉が2つあります。
ひとつは
「アーティストとはゼロからイチを作る人ではなく、ゼロを発見できる人なんだよ」
もうひとつは
「意図を持つこと、それを忘れること、そしてご機嫌でいること」
この2つは今も私の中で鳴り響いています。
「私はアーティストになりたい訳じゃなくて、ただ手を動かして絵を描きたいだけなんだけどなぁ。3ヵ月でプログラムが終わるころに個展でもできたらいいよね」
という軽い気持ちで、若干の不安とワクワクを持ちながら、翌1月からはじまるプログラムを楽しみに年を越しました。
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