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【独立ブーム?】ワンオク・佐藤健・神木隆之介、アミューズから3月末で独立 新会社立ち上げを発表【業界ニュース】

先日、こんな記事が発表されました。

ワンオク・佐藤健・神木隆之介、アミューズから3月末で独立 新会社立ち上げを発表。

このところ大手事務所からタレントが独立することが増えてきていますね。

今回の記事では、このようなトレンドの背景には何があるのか?そして、これから業界の構造がどうなっていくのか?ということについて書いていきたいと思います。

なぜ事務所から独立するの?独立のメリット・デメリット

大手事務所から独立したタレントや芸人、アーティストは、その後どのように活動していくのでしょうか?メリットやデメリットを考えてみましょう。

メリットとしては、「自由に活動できる」ということがあります。
つまり、ある程度仕事を選べることになる、ということです。
やりたいことをやる、やりたくないことはやらない、という選択の自由が生まれるんですね。

そして、ギャラ(取り分)は増やせるかもしれません。
当然、事務所との契約がどうだったかにもよりますし、仕事に対するギャラも変わるかもしれませんが、大きな事務所では多くのスタッフが関わりますから、独立して小さな事務所になれば、仮に案件に対するギャラが変わらなければ、取り分を増やすことも出来ます。

自分たちに「これがやりたい!」という強い気持ちや、「自分たちで事務所作業も全部できる!」とか「自分たちの能力(見た目や才能なども)で仕事は取れる、作れる!」という場合には、独立した方がメリットは大きそうです。

普通の企業でもそうですが、自分で稼ぎを生み出せる能力の高い人は独立しますよね?
それと同じです。

特に、「芸能人」というのはそれだけで価値を生みます。

つまり、容姿端麗な人や、芝居が上手な人、歌や作曲が出来る人、芸を持っている人、というように「人(=個人)」の才能を売っているのが「芸能人」なのですから、自分の活動そのものが価値を生み出していきますよね。

その人そのものが価値、といってもいいかもしれません。
その人自身が商品であり、本人しか出せない価値、替えが利かない、つまり稀少性が高いので、その価値も高く、価格も上がる傾向にあります。

「求められていて、替えが利かない」わけですから、最強ですよね。
需要がある限り食いっぱぐれることはない、ってわけです。

それでは、デメリットはないのか?といえば、そんなことはありません。

まず「営業」が必要になります。
これまでも仕事があったから、その仕事はこれからもあるとは限りませんよね?
「自分を使ってください!」という売り込みをしなければならなくなります。

人気商売ですから、辞めてすぐ仕事がない、ということもないでしょうが、遅かれ早かれ次の仕事を、自分たちで作っていく必要があります。

今回の場合は、チーフマネージャーが代表取締役を務めるであったり、元の事務所が出資したり協力したりと、そこまで苦労するケースはなさそうではあります。円満退社、ってやつです。

それでも、いつその協力関係が無くなるかもわかりませんし、30歳台で脂の乗っている時期はよいかもしれませんが、その先も需要があるとは限りません。

ですから仕事をもらえる内はいいですが、それらを選ぶだけではなく、自ら「こういう仕事がしたい」と取りにいくことも必要ですし、やりたいことがある場合は「自分で一から作っていく」必要があります。

大手事務所の場合は、専門性の高いスタッフも多く揃っていますし、人数も多く、また資金もあり、長年の仕事で積み上げてきた信用があるので、どんな仕事に取り組む場合でも、それらをこなす力が会社全体として備えています。

しかし、個人事務所の場合、限られたリソース(人材・資金・信用)で勝負しなければなりません。
仕事そのものだけに集中するだけではなく、それまでにやっていなかった経理の仕事や、仕事を取ること、そして複数のプロジェクトでそれらの進行を管理して進めていく、というのも全て自分たちでやっていく必要があります。

今回の場合は、従来のチームを継続しているようですし、引き続き事務所のバックアップも得られるようですから、心配するようなこともないでしょうが、一般的にはそういったデメリットもあります。

そして、資金や信用といった、仕事をする上で土台になるものを積み重ねていく必要があります。

例えば、これまでに頼んでいた優秀なフリーランスの方へ仕事を依頼するなどした場合、最初はこれまでの信用から仕事を引き受けてくれることもあるかもしれませんが、もし仕事の成果が出ず、思うように報酬を用意できなかったとき、どうしても減額をお願いしたり、支払いが滞ることもあるかもしれません。


そうすると、相手もフリーランスということは個人事業主や経営者なわけですから、ビジネスに対しては非常にシビアです。

支払いを受けられないなら「次回からの取引は前金でお願いします」とか、仕事そのものを受けられない、ということも有り得ます。

大手事務所の場合は基本的にこういうことはありません。
ある程度の運転資金を持ち、対応するスタッフが複数いて、仕組みとして完成しているからです。
これが「会社の信用」というものに繋がります。

どうでしょう?皆さん。
割と「あるある」だ、という方もいらっしゃるんじゃないでしょうか?

「個人事業主になるとカード作れない」というのもそうですよね?
企業に勤める会社員が、当たり前のようにカードを作ったり、ローンを組んだりできるのは、「会社に信用があるから」です。

個人が破産して会社に取り立てに行くことはないでしょうが、安定して給料を支払っている以上、いつ仕事があるかわからないフリーランスにお金を貸すより「取りっぱぐれがない」と考えるのは、まともですよね。
これと同じことです。

お金に限った話ではなくて、請けた仕事をきちんと全うしてくれる、これまで通りの成果を出してくれる、そしてそれを継続してくれる、といったことで信用を積み重ねていくことで、継続して仕事を続けていくことが出来るようになれば、やっと「軌道に乗った」と言えるわけですね。

こうなれば、独立して良かった、ってなるわけです。

なんだか、独立のデメリットの文章量が多くなりましたが(笑)、決して独立を否定しているわけではありません。むしろ素晴らしいことだと思っています。

独立は輝いて見えますし、実際活躍する人を羨望のまなざしで見つめているわけですが、エンタメ業界で「サラリーマン」としてはたらいている身としては、「会社勤めのメリット」というのもよく理解しているつもりなんですね。

この業界ではタレントに限らず、優秀なスタッフはどんどん独立していて、優秀だからこそ活躍もしているのですが、やはり「仕事を取ってくる」「仕事そのもの以外のことに時間を取られる」といった悩みは、やっぱり多いようですね。

だから、辞めてから「元の会社はよかった」なんて声を聞くことも少なくありません。
もちろん本人が後悔しているわけじゃなくって、「仕事だけに集中できる環境があることの素晴らしさに気づいた」ってわけです。

どちらが良いとか悪いということではなく、自分に合ったスタイルを選択できる、ってことが大事なんですね。
組織で働く方が明らかに向いている人もいますし、組織の方が有利に出来ることもありますから、どちらがいいのかは「人による」ってことです。

ここから個人として働くか、組織化して働くか、を選択してやり方が変わってくることが多いようです。

うまくやる人は、組織化が上手です。いいチームを作れるんですね。プロデューサーと言っていいかもしれません。これはこれで大量の記事になるので、また別の機会に書きます(笑)。

今後アーティストはどうあるべき?

さて、それではアーティストやタレントはどうあるべきなんでしょう?
それは、自らの発信力を鍛えること、が一つのヒントになると思います。

大手事務所は、何と言っても人材や人脈、資金が豊富です。
簡単に言えば、マスメディアを中心に媒体に対してパイプを持っていて露出を確保できるだけでなく、そうした仕事が入りやすい仕組みも、取引先との信頼関係もあります。

しかし個人になるとまず仕事を依頼する側はちょっと考えてしまいます。
「依頼した仕事をきちんと達成してくれるだろうか?」
「スケジュール管理といった部分でも問題はおきないだろうか?」
「支払いは滞らないだろうか?」
先のデメリットでも書いたように、まだ信用を積んでいる段階ですから、色んな見方をする人がいるのは否めないですね。

そこで、やはり「独立」したわけですからまずは「自分で全部できるようにする」ことが先決ではないでしょうか。

今の時代、芸能人の独立が進んでいるのは実はこれが一番の理由です。

「個人としての発信力を持てるから」
これですね。

例えば、強力なツールとしてYouTubeがあります。
テレビ・ラジオ・新聞等のマスメディアを使って一定の知名度獲得することが出来る芸能人は、全くのゼロから始めるYouTuberよりもはるかに有利です。

勿論どういった企画をするか?や、テレビのようなハイクオリティを担保できない、などテレビとの違いはあるものの、究極的にはスマホ1台あれば自分1人で発信出来ます。

これは20年前からは考えられないことです。
マスメディア以外に個人の顔を知ってもらう手立てはなかったからです。
それが今や、個人から全世界に発信できるのは当たり前になりました。

今の20代にとってYouTube、Twitter、instagram、TikTokなどで顔出し発信するのは抵抗もないでしょうし、日常的に使いこなしています。
そして、それが当たり前の時代です。

つまり、大手事務所が持っている「マスメディアとのパイプ「や、「多額の宣伝予算」といった強みが、20年前に比べて相対的に弱まっている、ということです。

事務所とタレントのパワーバランスが崩れているということですね。

コロナ禍で、受動的にテレビのネガティブなニュースを見るよりも、いつでもどこでも観られて、自分が興味を持っているYouTube動画を見る方が、勉強や気晴らしになっていい、ということに、テレビの世代が気付いたということも、それを後押ししています。

これからは、事務所から独立するタレントがどんどん増えてくるのは止められない流れ、ってわけですね。

これからの事務所に求められるものとは?

それでは、これから事務所はどうあるべきなのでしょう。

事務所は、従来のマスメディアとのパイプはその強みを手放すのは得策ではありません。
今は、インターネットメディア隆盛の時代で、相対的に弱まっているように見えますが、そもそもインターネットメディアと、従来のマスメディアはまだまだ機能の違いがあります。

企業の広告費も、インターネット広告費がテレビの宣伝費を上回ったとはいえ、それでも大きな一定額は投入され続けます。
完全に無くなることはありません。
内容に制約があるとはいえ、個人よりははるかにお金をかけた番組制作が可能です。

そして、テレビと共に育っていた団塊の世代、ベビーブーマー世代が人口に占める割合が大多数を占めている限り(つまりまだあと20~30年)は、消え去ることはないでしょう。

まだまだ大手事務所とマスメディアには稼ぐ余地があるということです。

これまで事務所は、そのパイプを使って得た資金や、長年積み重ねた信用を使って、タレントを発掘して、才能を早期に見極めて、磨きをかけ、大切に育てる、ということをやってきました。

そして仕事を生み出し、稼いだお金の一部を新たなタレントに再投資することで、このサイクルを継続してきました。

しかし手塩にかけて育ててきたタレントがこれから大きく稼ぐぞ、という今になって事務所から独立してしまうわけです。
お金のことだけではありません。
事務所からすれば「育ててやった恩を仇で返してやがって!」と感情的になるのも理解できます。それだけ大きな期待をかけてきたわけですから、人間としてガッカリするのも無理はないですよね。

しかし、そもそも自分の子供が同じように独立したらそんなこと言うでしょうか?
自分の子供が大きくなって親元から離れるの寂しいかもしれませんが、これまで育ててやったんだから、これからは自分のために働け、なんて言うわけありませんよね。

「いやいや、話をすり替えないでよ。これはビジネスなんだから」というのもわかりますが、これは商品そのものが人、というこの業界特有のものだと思います。

実際にそのタレント、アーティストはれっきとした人格を持った個人です。
それならば、その人格は尊重されるべきではないでしょうか。
本人がやりたいことをやりたいようにやるのは人としての権利です。
それを止めることは、本来誰にもできないはずです。してはならないはずです。

同時に、独立するのがいいことばかりではありません。
先に紹介したように個人として背負うデメリットもあるので、自分で責任を持つことになります。
自分で責任を持って、自分の人生を歩んでいくわけですから、それを他人がとやかく言うことは出来ません。

とはいえ、事務所の機能はこれまでもこれからも不要なのか?無くなるのか?といえば、そんなことはないと思います。

事務所の機能の内「信用を担保できること」「教育(マネージメント)ができること」に於いては、まだまだ強みがあります。
積み重ねた歴史があるからですね。
従来のマスメディアからの仕事がまだあるうちに、この2つの強みを最大限活かすべきです。

これについてもいくつかアイディアはありますが、その中でひとつ紹介するなら、やはりそれは「(タレント・アーティストと)緩い繋がりを持つこと」だと思います。

例えば、事務所に「所属」して一切の面倒を見るのではなく、タレント・アーティストが選んで「業務提携」するという形です。
海外のエージェント制に近づいていくイメージです。

海外では、基本的にはエージェント制で、日本の大手事務所のように個人を発掘、教育から全てに責任を持つマネージメント制は少ないようです。
タレント・アーティスト側が、エージェントを選んでいるのです。

数年でエージェントが変われば一から関係を作らなければならないといったデメリットもありそうですが、条件に合わないところはよりよく変えていけるというメリットもあります。

これをうまくやっていくには何より、タレント・アーティストが自身をプロデュースしていく必要がありますが、プロデュースも専門の人を選べばよいと思います。
自分が「こうなりたい!」という強い意欲があれば、そういう人が見つかると思いますし、そういう人を探して選べばいいと思います。

そしてこれまでの強みを活かして、エージェントとしてタレントを売っていく一方で、回収できる見込みがあれば教育などお金をかけて投資していくのが良いのではないでしょうか。

そうして業務提携の数を増やしながら、一部の売れるタレント依存のビジネスモデルではなく、エージェント業としてやっていくことになります。

その一方で、業界に対する影響力は依然として強みになるため、勝てる分野に対しては投資を行なうことにするのです。

このヒントは、ソフトバンクの孫正義さんの300年ビジョンにある戦略的シナジーグループを形成しながら、個別案件に対しては、株式会社刀(元USJ)の森岡毅さんの「投資機能を備えたマーケッター」のような形で対応していく、この2つの考え方の組み合わせです。

この2社の経営理念、経営戦略に共通しているのは、いずれも「長期的に繁栄し続ける」ことを目的としていることです。

IT業界やエンタメ業界のように、流行り廃りの激しい業界にあっては、長きにわたって繁栄することは、非常に難しいのです。

タレント・アーティスト活動に置き換えてみるとよくわかると思いますが、人が資産である以上、経年変化は必ず訪れるものですから、長期にわたって生き残る(売れ続ける)ことは、並大抵でありません。

常に、本当に常に、変化し続け、進化し続けていく必要があります。

大手事務所は、優秀なタレントを丸抱えして責任を持つのではなく、プロジェクト単位で真摯に向き合い双方にとっての利益を追求する一方で、投資を回収できる可能性があれば、プロジェクトごとにノウハウを提供(=投資)しながらプロデュースしていく、ということです。

今、芸能界を始め、日本のエンタメ業界は大きな岐路に立っています。

音楽の販売は低迷し、コロナでライブも出来ない、事務所からはタレント・アーティスト・芸人はどんどん脱退しています。

業界そのものの構造が変わっていくでしょう。
それも加速度的に。すごいスピードで。

しかしこれはチャンスです。

才能ある個人にとっても、制度疲労を起こしている旧態依然としてシステムにとっても、そして、私のように、エンタメ業界ではたらく全てのサラリーマンにとっても、です。

これまでのたった10本くらいの記事でも繰り返し書いているように、キーワードは「海外」「デジタル」「妄想」です。

これさえも、すぐに変化するでしょう。
しかし、ここまで大きく時代が変わる瞬間に立ち会えることは、業界の歴史にとっても貴重な時代となるのではないでしょうか。

そんな時代に、仕事が出来ることに喜びを噛みしめて、皆さんと一緒にこれからも頑張っていけたらと思います。

久しぶりの長文になりましたが、最後まで読んでくださってありがとうございました!


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