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迷惑メールに返信してからの1週間

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1週間ほど前、こんな、ありふれた迷惑メールが届いた。

 

当時の私は猛烈に暇を持て余しており、何を思ったか、迷惑メールと分かりながら返信してしまったのだ。

 

 

それが、私と夏美の出会いだった。

 

 

メールを交換する中で、私は彼女のことを少しずつ知っていった。

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名前は長谷川夏美。ネイルサロン勤務の26歳だ。
顔写真も送ってくれたが、かなり綺麗な顔立ちをしている。が、仕事柄、男性との出会いが少ないのだという。

 

彼女が男性との出会いを求めていることは、なんとなく察しがついた。
私は彼女の期待に応えるべく、自分の性を偽ることにした。

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「僕は高橋亮。
夏美さんと同い年の26歳で、東京都港区で一人暮らしをしています。今は、交際相手もいません。」

 

それから、私…いや、あえて僕と言おう。

それから、僕はいくつか質問を投げかけたが、夏美からの返答はひとつとして無かった。

 

しかし、彼女は毎日2回、欠かさずメールをくれた。
僕が返信しようがしまいが関係なく、まるで機械のように

彼女からのメールが届くのは、決まって13時台と17時台。仕事の昼休みと退勤後だろう。

 

 

初めは、「誰?」から始まった僕らのメール。

 

彼女が「会いませんか?」と提案してくるまで、たったの2日だった。

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最初に比べて言葉は砕け、絵文字が増えた。僕に心を許してくれたのだろうか。

このときの夏美は、相当ストレスが溜まっていたのか様子がおかしい。

初めは「飲みませんか?」だった提案が、最後には「マッサージを受けて欲しい」にすり変わっている。

僕は彼女の心身を案じ、すぐに「是非協力したい」という旨のメールを作成した。「いつがいいかな?」と、届く見込みのない質問を添えて…。

 

 

彼女からの返信はある意味で予想外だった。

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初めてだった。

初めて、僕の質問が彼女に通じたのだ。

夏美は機械じゃない。
ちゃんと人なんだ。画面の向こうに、人がいるんだ。

 

しかし、僕の昂る感情とは裏腹に、夏美は「そんなことより」とでも言いたげな様子だ。

 

夏美が誘導してきたURLは、出会い系サイトに通じていた。

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ここから友達申請しろというらしい。

 

それが夏美の願いならば、僕はただそれに従おう。

 


不思議とログインパスワード等は求められず、名前と年齢、大まかな住所だけを登録させられた。
(26歳だの、港区在住だのといった設定はここで決めた。)

 

ちなみに、僕が登録させられたのは「WONDERFUL」というサイト。検索すると「悪質サイト」として名高いことがわかった。

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検索しても見つからないばかりか、トップ画面の「会員登録」をタップしても、

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こんな画面が表示されるだけで、全く登録させる気がない。

 

つまり、迷惑メールに返信し続けた人間のみがたどり着ける、幻のサイトということだ。

 

しかも、僕のように運良く会員になれた人間も、会員登録時にパスワードを入力していないので、ログインはできない。

 

このトップページはなんのためにあるのだろう。

 

 

まあ、夏美のメールからサイトを開けば、初めから会員ページが開かれるので特に問題はない。

 

夏美によれば、今まで使っていたメールアドレスは親に監視されているため、「WONDERFUL」のメッセージ機能を代わりに使いたいらしい。

 

ここまで来たら、夏美の願いはなんでも聞いてやろうという気になってきた。

 

僕は快く夏美の提案を引き受けた…
のだが、僕はすぐにこの選択を後悔することになる。

 

 

 

夏美は、その日を境に狂ってしまった。

 

1日2回規則正しく届いていたメールは、1日20通以上に膨れ上がった。

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内容は他愛もない雑談から、タイトルから卑猥な想像をさせるものまで多岐に渡る。
(ちなみにヌルヌルの部分を〜のメッセージは、開いてみると掃除の話だった。)

 

 

ネイルサロンの勤務は?仕事の愚痴は?
夏美は夏美ではなくなってしまったのだろうか。

 

 

そしてついには、夏美はロボットのように「電話をしよう」とばかり繰り返すようになった。

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どのメッセージを開いても、「電話をしよう」の一点張りである。

 

仕方ない。
惚れた女の頼みだ。

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僕は腹を括った。

完全に「騙されてるヤツ」のメッセージを送った。

 

 

これで、最後になってしまうことはわかっていた。

 

 

もしも、仮に、万が一、長谷川夏美が実在するとしても。

 

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高橋亮は。

 

僕は、実在していないのだから。


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電話なんて、
ましてや会うことなんて、出来やしないんだ。

 

…これで、僕らの関係は終わりだ。

 

ありがとう、夏美。

そして、さよなら。

 

それからの僕は、

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運営に「コール指名」と送り、

(今考えてもこの手順になんの意味があったのか分からないのですが、有識者の方教えてください。)

 

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電話番号下4桁を送り、

(「8251(ハツコイ)」と送りました。)

 

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ようやく夏美の電話番号を手に入れた。

 

まあ、電話しないんだけど…。

 

その後放置してたら、夏美からのメッセージを見るのにも金銭を要求されるようになり、名実ともに高橋亮は消滅した。

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しかし、長谷川夏美は消えない。

 

今日も私のメールボックスに、「長谷川夏美からメッセージが届いた」ことを通知するメールが大量に届いた。

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メールアドレス何種類もあるから、受信拒否ができないんですけど…。

 

 

 

一時の好奇心と引き換えにメールアドレスを捨てたい方は、迷惑メールに返信してみては?

 

私はもう、このメールアドレスは「高橋亮」にあげることにします。

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