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映像サブスクサービスの競争軸は、コンテンツカテゴリーと出口戦略(Netflix, Disney, Warner等を事例に)

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  • (2022/03/07) Window戦略におけるパッケージビジネスの意義について追記しました。


TNT Sports will replace the BT Sport linear network and be available to stream via Discovery+. TNT Sports will host the likes of Premier and Champions League football, the Olympics, Moto GP and WWE. WBD said TNT already has a strong association with live sports in the likes of Latin America.

Deadline

2019年のDisney+ローンチを皮切りに、映像ストリーミングは群雄割拠の業界に様変わりしました。日本国産サービスとしては、先日Paraviとの合併が報じられたUnextが視聴者数370万人と奮闘していますが、グローバルで見ると、遙かに規模の大きいストリーマーが多数しのぎを削っています。

cordcuttersnews

そんな中、ランキング圏外であるDiscovery+で、TNT Sportsというプレミアリーグやワールドカップ、Moto GPなどの放映権を持っているテレビチャンネルが利用可能になるというニュースが発表されました。ご存知の通り、映像ストリーミングサービスでは「いかに魅力的なコンテンツを取り揃えているか」がユーザーの獲得と維持で最も重要なファクターです。その点で、このニュースはよくある施策レベルの一つではあるのですが、実はコンテンツ戦略にも様々な幅やポイントがあること、そしてコンテンツのラインナップ意外にも重要な戦略テーマがあることを掘り下げて解説していこうと思います。

まずは、皆さんが直感的に実感されている「コンテンツラインナップ」についてです。愛の不時着やStranger Thingsを見るためにNetflixに加入した人や、Star Warsシリーズを見るためにDisney+に加入した人もいらっしゃると思います。その点で、「いかに魅力的なコンテンツを取り揃えているか」がユーザーの獲得と維持で重要であることはご理解頂けると思います。しかし、魅力的なコンテンツといっても、無作為にヒットしそうなコンテンツを揃えているわけではありません。そこには、データに基づく明確なコンテンツ戦略があります。
一つ目に、「ローカルコンテンツへの投資」です。映像コンテンツというとハリウッド一強なイメージがありますが、実は各国での国産タイトルの方が人気が高い傾向にあります。例えば、インドにおける上位50作品のうち、英語の映画は『Avengers End Game』『Infinity War』、『Spidar Man: No Way Home 』『 Jungle Book 』の4作品だけです。日本では、歴代トップ15作品のうち10作品が国産映画です(Matthewball.vc)。Netflixの各国におけるTop10ランキングを見比べてみても、国単位やリージョン単位で意外とタイトルにばらつきがあります。その点で、コンテンツ戦略の重要なポイントの一つが「ローカルコンテンツへの投資」です。その国やリージョン毎に、最も好まれる作品を制作したり調達することが重要です。アニメを例にするとわかりやすいでしょう。Amazon Prime Videoには無数のアニメタイトル(約800タイトル)が並んでいますが、それは「日本だけ」です。USのPrime Videoで視聴できるアニメは約70本と、日本と比べると格段に少ないです(skdesu.com)。それは、日本ではアニメはよく視聴されるが、USではされないからです。アニメは日本で人気のローカルコンテンツであり、Prime Video Japanはアニメというローカルコンテンツを日本市場向けに投入しているわけですね。ちなみに、アニメのグローバル化という言葉が最近よく聞かれますが、海外で人気を博しているアニメは「ジャンプ系」と「昔大人気だったレジェンダリー系」のみで、いわゆる深夜アニメなどはほぼ認知度がありません。この件は、別記事で詳しく解説しようと思います。
二つ目に、「子供向けコンテンツへの投資」です。皆さんが映像ストリーミングサービスを利用するシチュエーションを思い浮かべてみてください。独身の方やお子様がいない方は、基本的に自分一人で楽しむ時間としてサービスを利用していると思います。一方、子供がいる多くの親御さんにとって、「子供の相手をしてくれる」もしくは「子供を喜ばせるための」サービスとして使っている方も多いのではないでしょうか。その点で、子供向けのコンテンツを充実させることは、子供を持つ親をサービスに呼び込み、利用を継続させる良い戦略の一つです。実際、Netflixに加入している「世帯」のうち60%が、毎月キッズ向けコンテンツを視聴しているそうです(Forbes)。試聴時間も、子供がいないユーザーに比べ、1日あたり20分長く視聴しています(Videoweek)。Rokuにも「Kids and Family」というセクションがありますし、Peacookも同じグループ会社であるDreamworks Animationの子供向け作品を多数提供しています。
三つ目に、「スポーツとニュースへの投資」です。日本でも、スポーツやニュースをみるために民放を視聴する方は多いと思います。それはグローバルでも同様で、有料チャンネルに加入する主要な理由になっています。アメリカでは、スポーツとニュースの視聴者の72%が有料チャンネルに加入しているのに対し、見ていない人の加入率は39%のみです(Altman Solon)。Altman Solonの調査によると、有料ストリーミングサービスや有料チャンネルを選択する時の評価基準として、スポーツ中継は4位になっています(Altman Solon)。

Altman Solon

Discovery+でTNT Sportsが利用できるようになったのも、このコンテンツ戦略にアラインしています。実際、HuluやPeacock, Prime Videoなど、あらゆるストリーミングサービスでライブスポーツやニュースを視聴することができます(PC Mag)。ちなみに、業界トップであるNetflixは、ここに目もくれていません。どのような戦略的意図があるのか、別記事で解説しようと思います。
最後に、複数サービスやコンテンツのバンドル提供です。これは、同じグループ企業にあるストリーミングサービスを横断してユーザー数を増やすための非常に重要な戦略です。DisneyやWarner Media、Viacomなどのメディアコングロマリット企業には、様々なストリーミングサービスが存在します。こういった企業は、元々別会社だったメディア企業が統廃合して出来上がっており、従来のメディアブランドを残したままストリーミングサービスを提供しているケースが多いです。例えば、Disneyは1996年に、スポーツコンテンツに強みを持つESPNを買収しています。そして、ESPNは、ESPN+というストリーミングサービスを2018年にローンチしています。2022年春に統合したWarner MediaとDiscoveryは、それぞれHBO MaxとDiscovery+というストリーミングサービスを別途展開していますが、Discovery+は日中に個人が数時間視聴するようなコンテンツ(ニッチな個人向けのコンテンツ)を提供しているのに対し、HBO Maxは夜に家族がみんなでみるようなコンテンツ(いわゆるハリウッド系のタイトル)を提供しています(Deadline)。つまり、同グループ企業傘下の各サービスをバンドルして安く提供することは、様々なジャンルのコンテンツを網羅的に視聴することができることを意味し、加入者を増やし維持する重要な戦略になっていると言えます。実際、DisneyはDisney+, Hulu, ESPN+をバンドルで安く提供しており、Viacom CBSはParamount+とShowtimeをバンドルさせています。Warner Media Discoveryは、HBO MAXとDiscovery+を統合せず、バンドル戦略をとってくることが予想されます(Deadline)。

さて、以上がストリーミングサービス各社が揃えるべきコンテンツを決めるための戦略的な軸でした。このようなコンテンツ戦略に加え、もう一つ重要な観点が「出口戦略」です。
映像コンテンツは、ライブゲームと異なり、一度制作が完了すればその後追加で発生するコストはかなり小さいです。限界費用が微小という特徴があるが故に、「一度作ったコンテンツをいかに使いまわせるか」は、コンテンツへの投資を決定する非常に重要な観点となります。ストリーミングサービス限定で作ったコンテンツでも、数年後に有料チャンネルやリニアTVで放映できる体制があれば、ノーリスクでコストを一部回収できますし、Disneyのように強力なマーチャンダイズやテーマパークのような出口があれば、二次収益も見込むことができます。
映像コンテンツは、一部のロングヒット作品を除くと、ほとんどの視聴がリリース直後に集中します。例えば、国内で興行収入251億円を上げた「君の名は。」は、351日劇場興行していますが、そのうち半分弱の100億円は5週目(約35日)に達成しています。Netflixで大流行したイカゲームも、リリース2-3週間後に閲覧数のピークを迎え、その後は減少しています。

Yahoo News
Business Insider Japan

イカゲームだけでなく、「愛の不時着」など一部のタイトルを除き、Top10入りするほとんどのタイトルは、約1~2か月でランキングから姿を消します。
コンテンツ数の増加と映像を視聴する手段の多様化により、この傾向はますます強まっています。ハリウッドのメジャースタジオは、どこもリリースウィンドウを速めています。映像作品を作ったあと、できるだけ早く様々なチャネルに展開して収益を最大化しようとしているわけですね。例えば、映画の公開からDVD化までの期間を見てみると、2000年は約170日程度だったのが、2019年は90日程度まで短くなっています。

NATO

ここからも、「リリースされた映像コンテンツをいかに多くのウィンドウでマネタイズするか」は、コンテンツの投資対効果を高める上で非常に重要な観点であることがお分かりいただけると思います。
この点で、ストリーミングサービスしか展開していないNetflixに対し、リニアTVやPay TV、パッケージビジネス、グッズビジネスなど様々な出口を持っているDisney、Warner、NBCUなどのメディアコングロマリットは、かなりの競争優位を持っています。
特に、パッケージビジネスは縮小しているとはいえ、セルとレンタルを合わせた市場規模は約60億ドルあります。劇場Windowの後すぐにSVODにライセンスするのはナンセンスで、セルとレンタルを挟む方が経済合理性が高いというハリウッド関係者も存在します。ユーザー視点からしても、お気に入りの映画が劇場終演した後、どのプラットフォームにどのタイミングでリリースされるかわからないより、5ドル程度払って確実にレンタルで見れる方が嬉しいという意見もあります(Deadline)。
Netflixも、最近はゲーム事業を立上げ映像作品をゲーム化したり、マーチャンダイジング事業を立ち上げるなど、IPの出口を広げようとしています。メディアコングロマリットの圧倒的な出口パワーにどこまで対抗できるか、楽しみです!

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