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エンタメ事業間のシナジー創出パターンは限定的(SonyとTencentを例に)

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When the drama debuted, it pulled in 4.7 million US viewers and became the second-largest HBO viewing premiere in the last 13 years.
UK Boxed sales for the game jumped to 238% after the program's launch.

Game Industry Biz

PlayStationの主力タイトルである、Last of UsのテレビドラマがHBOで大ヒットし、「続編が決定」&「ゲームの売上も238%増」という大成功に終わりました。Last of UsはPlayStationのオリジナルタイトルで、ドラマの制作はSony Pictures Television。つまり、SonyのIPを、Sonyのドラマ部門が映像化し、映像作品として大ヒット、かつゲームの売上も増加したという構図になっています。まさに、エンタメ事業間のシナジーによる売上拡大の成功例と言えるでしょう。
Sonyは、近年PlayStationのオリジナルIPを、Sony Pictures Entertainment(SPE)が映像化するという部門間連携を多く実現しています。最近だと、SPEが制作し4億ドル以上の興行収入を上げたUnchartedも、PlayStationのIPです。

Sonyの場合、映画とゲームに加え、世界第二位の売上を誇るSony Music Entertainment(SME)も傘下にいます。Tencentと並んで、世界的なコンテンツ事業を抱えるコングロマリットエンターテインメントカンパニーと言えるでしょう。

Sony Group Portal

これだけのレンジと規模があれば、エンタメ事業間でのシナジーもたくさん生み出せそうと直感的には思いますが、事はそう単純ではありません。コンテンツとしての種類や権利関係、事業範囲などを踏まえると、実はシナジーを出せる範囲はかなり限定されてきます。

まず、一番大切なファクターは「IPを保有しているか」です。コンテンツ事業において、意思決定の権利を持つのはIP保有者です。従って、IPを保有していない限りは、単独で意思決定できる範囲が一気に狭まってしまいます。日本の製作委員会方式を例に考えるとわかりやすいでしょう。Sonyの場合、傘下のAniplexが主に製作委員会に入ってアニメ製作を行っています。しかし、リスクを抑えるために様々な企業から出資を募って組成し、共同で意思決定するのが製作委員会です。そのため、AniplexがSonyの他事業とシナジーを出したいからといって、思うように事を進めることができないのが通常です。

「IPを保有している」場合、シナジーを出す余地が生まれてきます。例えば、ゲームのIPを映像作品として展開するケースを考えてみましょう。映像作品を制作する際のプロセスは、「企画→制作→流通」と大きく三段階にわけることができます。
ゲーム側からすると、完成した作品はできるだけ多くの人に観てもらって売上増加に繋げたいと思うので、例えグループ企業に配信プラットフォームを持っている企業だとしても、そのプラットフォームの限定タイトルにする、もしくは先行配信などで優遇する理由はありません。
Sonyも、Bravia CoreというBraviaからのみ見れるストリーミングサービスを持っていますが、UnchartedやLast of UsをBravia Coreの限定タイトルにはしていません。Last of Usも、ストリーミング配信はHBO MAX独占ですが、その前にHBOのリニアTVで無料放映されています。
映像作品をゲーム化するシナジー創出のケースも同様です。同じくSonyの場合、ゴーストバスターズはSPEオリジナルIPで、フランチャイズ戦略の一環でゲーム化もしていますが、PlayStationの限定タイトルではなく、Nintendo Switchでも遊ぶことができます。流通を最大化したいわけです。
Netflixが日本でアニメの独占配信タイトルの獲得に苦労している理由も同様です。最近だとSpy x Familyやチェンソーマンなど、Netflixであれば喉から手が出るほど独占で配信したいタイトルも多いですが、IPホルダーである出版社からすると、日本で500~700万人程度しか会員がいないNetflix独占にするのではなく、様々なプラットフォームで配信して多くの人に観てもらい、漫画の売上を上げたいと思っているはずです。

では、「企画と制作」はどうでしょうか。ここが唯一、シナジーを創出できるポイントです。もし同じ企業内にプロダクション機能があれば、自社が保有するIPをそのプロダクション機能を使ってマルチメディア化することができます。冒頭で取り上げた、Last of Usもこの例で、PlayStationのIPを、同じSony傘下にあるpationのIPを、同じSony傘下にあるプロダクションであるSony Pictures Televisionが映像化しています。

これをSonyの他の事業に当てはめて考えると、シナジーを出せ得るシナリオは以下の通りで、意外と限定的であることがわかります。

  • SPEやAniplexのIP保有映像作品を、PS Studioがゲーム化する

  • SMEでマネジメント・エージェントしているアーティストを、SPEやAniplexがIPを保有している(もしくは音楽権利を持っている)映像作品で起用する

後者は、Aniplexが製作委員会に入り、LisaやAimerというSMEがマネジメントをしているアーティストをOPに起用している鬼滅の刃という事例があります。鬼滅の刃は製作委員会方式ですが、参加企業は集英社・Aniplex・Ufotableの三社で、音楽ビジネス面はAniplexの発言権が大きかったのではないかと推測できます。

ちなみに、Sony同様、ゲーム・音楽・映像全てを傘下に持つTencentの場合はどうでしょうか。
Tencent Gamesには、Pokemon UniteやCall of Duty、League of Legendsなどメガタイトルが多数ありますが、保有IPは意外と少ないです。Pokemon UniteやCoD、PUBGなどはモバイルゲームのライセンスのみで、完全子会社のRiot GamesやSupercellが出しているLeague of LegendsやClash of Cranは保有IPとなります。
Tencent Musicには三つの音楽ストリーミングプラットフォームがありますが、配信しているだけで自社でアーティストをマネジメント・エージェントはしていないため、IPは保有していません。
Tencent Picturesは多数映画を制作していますが、海外との合作映画については20-80%の出資比率ですので、IPを完全に保有はしていません。国産映画は100%出資で、二次利用の権利もTencent Picturesが保有しているケースが多いため、シナジーの創出余地があるでしょう(日本コンテンツの海外展開に関する 調査報告書-中国編-)。
以上の情報から、あり得るシナジーは以下のシナリオのみとなります。やはり限定的であることがわかると思います。

  • Riot GamesやSupercellなど、100%子会社のゲームスタジオの作品を、Tencent Picturesが中国国内向けに制作する

  • Tencent Picturesの国産映画を、Tencent Gamesがゲーム化する

以上、エンタメコンテンツ事業間でのシナジー創出余地は意外と限定的であることを解説しました。

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