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客席をデザインする

おはようございます。
「レモン1000個分のビタミン!」とか「レモン3000個分のビタミン!」というコピーを見るたびに、自分の中でのレモンの評価が下がっていくキングコング西野です。
#レモン負けすぎだろ

さて。
今日は『客席をデザインする』というテーマでお話ししたいと思います。
全ての接客業に関係ある話です。

ステージ上の決定権を持っているお客さんをハックしよう!

NYのブロードウェイの劇場を通う度に、「アクターもプロだけど、お客さんもプロ」ということを思いしらされます。

これは数年前に話したことがありますが(※新しくサロンに入って来られた方もいるので、あらためて…)、全身青色のパフォーマンスグループ『ブルーマン』のショーなんて、特にブロードウェイと日本で、その差が出ます。

乱暴に分けると…

・日本のお客さんの基本スタンス=「楽しませてください」
・ブロードウェイのお客さんの基本スタンス=「楽しむぞ」

です。

明らかに客席の熱(前のめり感)が違っていて、客席のそれに引っ張られる形で、パフォーマーのパフォーマンスが違ってくる。

パフォーマーは「プロ」とはいえ、「人」なので、そこには“感情によるブレ”があるんですね。
#接客業の全てがそうですよね

で、すんごく当たり前の話なのですが、お客さんが自分の満足度を上げたければ、パフォーマーをのせた方が(イイ気にさせた方が)絶対にイイ。

その時に大切なのは、その部分をお客さんに丸投げするのではなくて、「我々(お客さん)が、パフォーマーをのせた方が、パフォーマーがより良いパフォーマンスをして、我々の満足度が上がるよね」と、お客さんが“思いつくように”客席をデザインするということ。
#ここが重要っす

「どういう空間を作れば、お客さんが『パフォーマーをのせた方が巡り巡って自分達が得をする』と考え始めるだろう?」ということを徹底的に考えることが大事で、そこをミリ単位で設計したのが『天才万博』です。

あのイベントの裏では、「どうもありがとうございました」の後、エンディングの音が出るタイミングが0.5秒でも遅れればブチギレ案件なんです(笑)

たとえば『拍手』一つとってもそう。

『拍手』は客席から自然発生するのを待つのではなくて、お客さんに「拍手しよう!」と“思いついてもらうこと”が大事で、それには照明や音響のボリュームやタイミングが大きく関係してくる。

もちろん、照明や音響だけではありません。

たとえば結婚式で、余興や挨拶が終わる手前に「シャンパンのおかわり」を何も考えずに運ばれたりしますが、あれはいけません。
お客さんがグラスを手にしてしまうと(物理的に手を叩けなくなるので)拍手の量が減ってしまうからです。

拍手の量が減ると、パフォーマーのパフォーマンスが下がります。
ウェイター(ウェイトレス)は、配膳のタイミングがパフォーマーのパフォーマンスを司っていることを自覚しなくちゃいけない。

デザインしなきゃいけないのはステージの上だけではなくて、同じ熱量で、客席もデザインしなくちゃいけません。

さて。

「客席をデザイン」といっても、僕は、『開場前』と『開場後』で分けるべきだと考えます。
つまり、「客席のデザインは当日(本番)が始まってからだけではなくて、当日を迎える前から始まっている」という話です。

日本のブルーマンが“やや”上滑りしているのは(#口が悪い)、開場前(当日を迎えるまで)のデザインを怠っているから、その正体が何かというと『文化』です。

「ブルーマンは“前のめりのお客さん”を歓迎していて、大きなリアクションをとっても、浮いて恥をかくことはないよ」ということを、丁寧に訴求しなくちゃいけなくて(※ブロードウェイはこの文化が確立しているよね)、それが難しいなら……僕ならば、会場ロビーで流すBGMの音量を上げておいて、会話の声が大きくなるように仕掛け、お客さんの喉を開いておく(声が出やすい状態に整えておく)でしょう。

逆に、飛沫を防ぎたい飲食店さんなんかは、店内のBGMのボリュームを下げて、ローテンポの曲を照らんで、照明をいつもより暗くするか、究極はロウソクに変えれば、お客さんは「声を押さえよう」と“思いつくの”で、大声の量が減り、飛沫が減ります。

…みたいな感じで、客席から丁寧にデザインすることが大事だと思います。

映画はどうだ?

自分達が仕掛けているイベントと、映画が、大きく違うのは、映画は「上映前&上映後の演出ができない」という点です。

映画は各劇場さんに作品をお渡しして「流してもらっている」という形なので、上映前&上映後の演出は各劇場さんのルールでまわっています。
映画館では基本的には、無音で席に着き、無音で退室で、そこに盛り上げる演出などは挟まれません。

『映画 えんとつ町のプペル』を届ける日々の中、この条件下で、どう、客席を良い感じにデザインできるのだろうか?と考えるわけですが……昨日、何気なしに、SNSで呼び掛けて、お客さんと一緒に映画館に行ったんです。

確信めいたものがあったわけではなく、「こんなことをしたら、どうなるのかなぁ?」といった感じで。。

その結果……メチャクチャ楽しかったんです。
それが、もう、本当にっ!

そして、帰り道、「なぜ、楽しかったのか?」を考えるわけです。
だって、上映前&上映後の演出があったわけじゃないし、お客さんのリアクションをがどうであろうが、パフォーマー(映像)のパフォーマンスは変わらないわけじゃないですか?

いろんな要因を考えてみたのですが、おそらく、「作品を認めている者同士で観ている安心感」がそうさせたのだと思います。

本来、『映画館』という場所には、いろんな思惑を持った、いろんな人が集まってくるわけですが、昨日の夜(21時45分~)の上映には、プペルが好きで、作品のクオリティーを信じている人達が集まっていて、皆、声には出さないまでも「ね、分かってるよね?」という感じで、心の中で手を握っていたんです。

それが顕著に出たのが、エンドロールだったのですが、エンドロールの終わりかけの時に、一人のお客さんが席を立って、劇場を出ていかれる時に、深々とお辞儀をされたんです。
暗くて顔は確認できなかったのですが、皆、その人が「西野」だと思って、まもなく会場から拍手が起きたのですが、エンドロールが終わって、劇場が明るくなると、客席に「西野」がいるんです。

その瞬間、「だったら、さっきの人は誰なんだよw」と全員が思って、その直後に「それより何より、なんで深々とお辞儀をしたんだよwwあのお辞儀は『作った人』の感じだろww」ということを皆が思ったのですが、見渡すと全員ニヤニヤしていて、そこには一粒のネガティブも落ちてなかったんですね。

以前、ブロードウェイで『STOMP』を観たときに、どういうわけか、前の方の席がゴッソリと空いていて、開演前にスタッフが「指定席になっておりますが、子供に限り自由席です」とアナウンスして、まもなく前の席は子供で埋まりました。
自分よりも後にチケットを取ったお客さんが、自分よりも良い席に座ってしまったのですが、「…でも、子供だしイイよね」と全員が思って、全員がニヤニヤしていました。

その時に、「おかしいじゃないか!俺の方が違うぞ!」という人が1人でもいたら、あの多幸感は生まれなかった。
「子供は贔屓しましょう」という文化を持った者同士で集まっていたら、あの多幸感が生まれたのだと思います。

「同じ文化の人間同士と観に行く」というのは、映画を面白くする為の一つの演出だなぁと思いつつ、一方で、それが過ぎると次は排除の力学が働いてしまうので(いちげんさんが参加しづらい)、バランスを見ながら、やっていこうと思いました。

今夜(12月30日)はTOHOシネマズ六本木ヒルズの21時45分の回を観に行きます。

感染症対策で、写真を撮ったり、サインをしたり、握手をしたりすることはできませんが、「作品を認めている者同士で観ている安心感」を経験してみたい方は、是非、ご参加ください。

これ、映画に限らず、結構な場面で転用できそうだなぁと思っております。

現場からは以上でーす。

【追伸】
サロン記事の感想を呟かれる際は、文章の最後に『salon.jp/nishino』を付けて《本アカ》で呟いていただけると、西野がネコのようになつく場合があります。

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このnoteは2020年12月30日のオンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』への投稿をもとに作成しています。


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