見出し画像

詩) 自我

   自我

かつて 此岸は
社会と呼んでいた 対岸は
何と呼んでいたか それは覚えていない

   レールは2つに
   さらに4つに 8つに
   分かれてゆく その先

此岸は かつて
秩序と呼ばれていた 対岸は
憧憬と呼んでいた 僕は

僕・・・
その一人称
車中に揺られる者

   かつて あの夕陽は
   夕陽ではなく 終焉でもなく
   永遠の象徴だった

僕 という 一人称
その軌跡を抱えていた かつては
・・・今は?

   水平線を中心にして
   上下に広がるだけの空間
   そんなものが海や空であろうものか

僕 という 一人称
その衝撃的な存在
それをなぜ置き去ることができたのか

   そも 今 それは
   どこに?
   滑り込もうとするこの駅に?

かつて この男を
僕 と呼んでいた 今は
何と呼びうるのか―――
まさか、単なる「自我」とでも?

          (2003.5.13)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?