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リチェルカーレ

   リチェルカーレ

破り去られた本 それを目の前に
遥かな過去のように思える 14年
僕はただ 生きていた
ただ 息をしていた 今

屋上から見下ろす地面は 既に
僕を破壊するものではなくなっていた
同時に この建物は 既に
僕にとって 重要な目撃者となっていた

昨日 バッハを弾いた リチェルカーレ
時間という冷徹な父を称えたような
むしろ 友としたような
静かに語りかけてくる 微風のような リチェルカーレ

ああ 飛び降りてゆく時間が長ければいい
永遠に飛び降りるままであればいい
どうして人は大気に浮ぶことができないのだろう
どうして ひたすら水平に落ちてゆくことはできないのだろう

別に 死ぬだの生きるだのは どうでもいいのだ
わからなくなっただけなのだ 人間という奴が
愛されるということ 愛されないということ
その違いはどこにあるのだろう

ただ生きてあること―――
ああ そのことを指弾する人間と言う奴
ただ息をしていること―――
そのことを指弾する人間という奴

僕もまた 人間なのだ
その罪悪感こそ気分が悪い

昨日 バッハを弾いたとき
僕は決めたのだ
人間をやめる と
          
          (2006.11.25)

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