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詩) 無題

   無題

小さな紫色の花が咲いている
私はそれを摘もうとする
猫がそれをじっと見つめている
焦茶色の縞模様が
雨にぬれた地面と連続して
草むらの影に気配は消されている

瑞々しい紫色の花は
私の手の中で息づき悶えている
見上げると
大きな木の梢の下に居ることを知る
黒い大きな影が
草むらへと連続している

目を閉じることを余儀なくさせる
瞬く木洩れ日の鋭利な刃
模倣を拒む者たちの棲む一隅
私はそこを出る
萎れた紫の花を掌にして
遮るもののない空間へ

屹立するビルのガラス窓は
忠実に空を写し
視覚だけを切り出し、灼きつける
お前、摘み取られた紫の花よ
あの窓に映る空が、一体
何を語っているかを教えてくれ

お前が結ぶべき種子は
私が断ち切ってしまった
しかしお前は私に語らなければならない
その目で見たことを
その耳で聞いたことを
その五感で知ったことを

          (2007.5.26)

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