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詩) To Sea of Silence water

   To Sea of Silence water

はらはらとした歩み、海へと続く小径(こみち)
僕であるところの―――この隣人

君が言い出した
「曇りであれば、小径自身が海へ顔を向ける」と

祈りの風がスカートの裾を引く・・・
白いウェディングドレスの裾を捧げ持つ、ひと組の童子のように

砂浜はまだ見えない
けれど海原は望める

小径の両側を縁どる 叢(くさむら)が知っているとは思えない
理知という無用の創造物を生み出した人間の神など

遠く、そして、広い
抱くことも、抱かれることもできないほど

白く、ほの暗い雲の模様が君を先導する
生の遥か彼方に感じられるという、Sea of Silence water へ

無であるように見えるものを並べてみるという
それを繰り返してきた僕を、君は連れて行くという

陽光(ひかり)は、なぜこの丘に棲むことが適わぬのか
君の抱く、最愛の生である陽光は、なぜ近付かぬのか

止めることができるはず―――
僕の背に広がる、被造物の世界に戻ることもできるはず

が、
しかし

僕の侵した人間の世界、毒づいた世界
そこで犯した罪とは単なる冒涜でも侮辱でもない

君は微笑するのか
ああ、その、時間を揺らし、大気を薄め、僕を魅惑する君の微笑こそ、海には似つかわしくない

なのに、知っているというのか・・・
彼方にたなびく雲の、遥か向こうにあるという、Sea of Silence water を

差し出された掌の、ほのかな温かさ
そこに沈む無邪気な企みを、この小径は容認する

私達の行動の、衝動の、その意味するところ
いや、その事実そのものさえ―――沈む叢

小径を歩む、僕たちにも
いずれ砂浜が見えるにちがいない

終わらせることのできぬ「To」
その始まりとなる砂浜が

          (2004.1.4)

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