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詩) 彼

   彼

その胸元に組み合わされた掌
伸び上がるつま先
お前がずっと遠くに望むもの
眩暈を起こさせるほどの広さ、広さ、広さ

僕は弾いているのではない
吹いているのではない
お前の望む遥かから渡ってくるすべて…
それを反射しているのだ

眼下をくねる細く白い川すじ
幾千年前に流れてきたのかわからぬ
大小さまざまな無数の岩
その川筋に向けて反射しよう

その川下には街がある
僕たちの生まれた街がある
今居るこの場所が遠く小さく望める街
この谷を下りれば帰ることのできる街

僕たちは知っている
人しか存在しないところに何があるかを
人しか存在しないところには何がないのかを
僕たちは知っている

ここでは誰にとっても同一の知人がいる
いつどこに在ろうとも、いつ誰と居ようとも
彼はいつも、その人に語りかけ
その人の視線を、ふっ、と吸い寄せる

僕たちは有限の世界に生きている
しかし、僕たちは知っている
彼といることで世界は無限な広がりとなることを
今、お前はその無限の遥か遠くを望んでいる

大きく息を吸い込み
お前は組み合わせた掌をほどく
まるでそれが儀式であるかのように
大気との結婚のときであるかのように

          (2003.10.6)

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