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詩) 書簡

   書簡

夕暮れの空に白い半月が出ている
薄墨色の雲が流れてゆく
ほんのりと紅をさした雲
鳥たちがねぐらへと急いでいる

“今年の冬は思いのほか
 寒さ厳しく・・・“

昨日は娘が訪ねてきた
今日からまたずっと長い一人暮らし
わが家の猫は、ありがたいことに
それを気にもしないだろう

ゆっくりと水面を流れる葉が
ひととき水底の石を隠すように
雲が空を流れ
月をひととき隠してはまた流れてゆく

“今年の冬は昔のように
 寒さ厳しく・・・“

こんなにも長く空を眺めていること―――
そのことが今の私の
紛れもない私の生
月がまた現れている

猫は布団の上で丸く眠りについた
あっという間の六十年
私はその証を求めない
私であったことを求めない

“明日もまた
 静かな一日と・・・“

夜が近づいている―――
眠りにつくことをためらうのは
明日が今日と変わりないことを
知っているがため

あなたに宛てて
この書簡をしたためるのは
明日が今日と変わりないことを
知っているがため

“遠くに見える
 今がある“

     (2006.1.9)

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