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橋が舞台『三びきのやぎのがらがらどん』

「がらがらどん」という同じ名前の3びきのやぎ。小さいやぎ、にばんめのやぎ、大きいやぎが、草をたくさん食べようと山へ出かけます。ところが橋をわたる途中で、谷に住む恐ろしいトロルに出くわしてしまいました。3びきのやぎは無事に橋をわたることができるのでしょうか。

「橋」といえば、架け橋や虹など明るいイメージ。いまでこそ「橋が好き」とあちこちでハッシュタグをつけているが以前は怖いものの代表だった。できれば橋には近づきたくなかった。口ごたえをしたのか、なにかいいつけを破ったのか忘れたが、母に「橋の下で拾ってきた子だから」とピシャッと言われた。すべての悪事を反省させる叱り言葉の番長。なぜだか心がかき乱されて、しょんぼりした。親たちの思惑にまんまとしてやられていた。おかげですっかり「橋が怖い」ものになった。今、冷静に考えると、橋より母親の方がよっぽど怖い。

トロル(Troll)とは、北欧神話では特定のモンスターを指すのではなく、何か恐ろしい怪物という意味で使われる。ひとめにつかない丘や塚や地下に住む妖精の一種。諸説ある中で、霜の巨人族の末裔というのが有力とされている。自分たちの先祖が雷に打たれたことを恨み雷を嫌う。ドラムや教会の鐘の音も雷に似ているので嫌がる。外見は醜く、長い鼻に、長い尻尾、稀に2つ首3つ首もいる。力持ちで、変身ができて、食いしん坊。人間に悪意を抱くことはなく、友達になるとお金を貸してくれたりもする。しかし、ときどき人間の子どもを盗んで、自分がその親に養ってもらい「取り替え子」になり悪さをするという。ハリーポッターに登場するトロールも、大きくて凶暴な種類の魔法動物として描かれている。日本の鬼のようなもののようだ。怖い悪者だけど、どこか憎めないトロル。

さて、「三びきのやぎのがらがらどん」は橋の下にいる恐ろしいトロルを越えて向こうの山に行かなければならない。カタコト、ガタゴト、ガタンゴトン。順番に橋をわたる三びきのやぎの足音。丸太をつなげた橋は、足音だけでなくギイギイ音をたてているのではないか。トロルの機嫌をそこなうに違いない。恐怖が迫るトラウマ必至の橋ホラー。これでまた橋好きが減ってしまうと思いきや、リズミカルに繰り広げられるやぎとトロルのやりとりと、明るく乾いた色合いの絵によって、爽快カンフー映画の趣に。両者の間に効果的な舞台装置として橋をおき、テンポよく展開される。

三びきのやぎは元のやぎなんだろうか?トロルは変身上手だったんだよな。ふとそんなことを考えながら読み終える。そういえば、「橋の下で拾ってきた子」はトロルだったりして。

三びきのやぎのがらがらどん(ノルウェーの昔話)|1965年7月1日
マーシャブラウン 絵|瀬田貞二 訳|福音館書店
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参考図書:『図鑑・世界の妖怪 ヨーロッパ編』さこやん 絵と文|偕成社『幻想世界の住人たち [1]』健部伸明と怪兵隊|新紀元社

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