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そうです、川の向こうがわ。『川をはさんでおおさわぎ』

川の東西にわかれて、鍛冶屋さん、仕立て屋さん、お医者さん、えんとつ掃除屋さん、靴屋さん、パン屋さん、お百姓さん、機織屋さん、きこりさんがひとりずついました。のどかに見えるこの村の人々、実は東西にわかれて喧嘩ばかりしていました。ある日、一本しかない橋が嵐で壊れてしまいます。お互いにせいせいしたとばかりに壊れた橋をそのままにします。ケンカもしないで村人は静かな日々を過ごしますが、さて困ったことがはじまります。

動物にとっての縄張りは、自分たちのグループを守ったり、他をよせつけなくしたりする、それはそれで大切な機能。ここ一年は特にそれを意識する日々でもある。非常事態宣言が出た地域では、飲食店は午後8時までしか空いていないけれど、隣の県では、同じチェーン店が普通に営業している。見えない県境の橋が壊れてしまって、あちら側に行けない。だから8時以降はお店でご飯が食べられないという、とても不便事態。まあ、こちら側で8時までか、家で食べればいいだけのことなのだけれど。
 
そういえばこの感じ、小さい頃はよくあった。「校区外には出てはいけません」「信号より向こうは行ってはいけません」「私たちは2組だから3組の人とお弁当を一緒に食べてはいけません」。どれもこれも規制ばかり。先生はみんなと仲良くしなさいと言いながら、いろいろな規制を押し付けることに、いつも小さくぷんすか怒っていた。今になって思えば、危険を寄せつけないことや、守られていたこともわかる。けれども、その頃はどうやって大人の目を盗んでその線を乗り越えるかを毎日考えていた。おっかなびっくり信号の向こうのキラキラした世界を見に行くことに、下校時間は全力を尽くしていた。少しずつ範囲を広げていって、友だち同士どこまで知っているかを自慢しあった。誰かにその規制を解かれた覚えはないけれど、中学になり、校区の範囲も広がり、順番に広がって大人になっていった。それが新しい生活へ慣れていくプロセスだったんだろう。

嵐ではなくCOVID-19に壊されているそこらじゅうの橋を修復して、自由に行き来できる生活に戻していく。大人も子どもも、みんな自分ができることで、前よりずっと丈夫な橋をかけることができるんじゃないかな。あの時の怒りと、行動力を思い出して、1日も早く新しい橋をつくろうとハートが燃え出した。

『川をはさんでおおさわぎ』|ショーン・オッペンハイム 作|アリキ・ブランデンバーグ 絵|ひがし はじめ 訳|アリス館


『川をはさんでおおさわぎ』は絶版で、現在は『みんななかよしけんかばし』として新訳出版されています。

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