夏の冷蔵庫にはミョウガ
近ごろ冷蔵庫に常備しているものがある。
ミョウガを刻んでゴマ油と麺つゆに浸したやつだ。
Twitterで話題になっていてやってみたらおいしかった。ざるうどんにかけたりキュウリにかけたり冷奴にかけて楽しむ。おみそ汁にトッピングしてもおいしい。分量は適当でミョウガは好きな大きさに刻めばいいし、ごま油を少し垂らして麺つゆはひたひたに浸かるくらい。
大学生になるまで薬味の美味しさを知らなかった。というか、実家では薬味パワーを感じる料理を食べていなかった。
有名な薬味といえば、こんな感じだろうか。
しょうが
ねぎ
ミョウガ
大葉
のり
ワサビ
実家の食卓...
しょうが ー 焼きナスに乗ってたかな?でも当時はナスが嫌いで食べてなかった。
ねぎ ー 納豆にかかってたことがあったかも。でも私は納豆パックを直接食べてたからかけてないな。
ミョウガ、大葉 ー 食卓に出てこなかった...と思う。
実家の食卓が貧相だったわけではなく、好き嫌いが多い家族に合わせた大味メニューが頻繁に出ていたり、3世帯家族の食事を用意するだけでも大変で薬味の出る幕がなかったのだ。当時の私は薬味が乗るような料理は好まず、揚げ物ができれば盛り付け前に食べ始めたり、滋味深い副菜には手をつけなかったり。こんな自分勝手な家族のためにわざわざ薬味まで用意しないのは当然だと思う。
当時、素麺も冷やし中華も家で食べるときは具無しで食べていた。栄養や旬の味など考えもしなかった。夏休みの昼食はお腹さえ膨れればいいと思っていたから、食事を用意してくれる祖母が『具、なにかいる?』と聞いてきても『何もいらんよ』と答えて麺に汁がかかっただけのものをパパっと食べてしまうのが常だった。
実家を離れて大学の寮で食べた素麺。これが衝撃だった。
私の入っていた寮は同じ学部の1年生が同じ階に15人、調理場は同じ階のフロアにひとつあってそれを共同利用。皆が初めて親元から離れての生活ということで、同じ階に住む者同士で楽しい共同生活ができた。
台所ではたびたび持ち寄りパーティーや誕生日会が開催された。思い出の素麺は七夕パーティーで出会った。
その日は浴衣を着たり笹飾りを作ったり色々と手分けをして、料理担当の友達が作ってくれた夕飯は素麺だった。調理場に行くとざるに山盛りの素麺がふた山と、トッピングの薬味があった。ネギ、ミョウガ、大葉、海苔。さらに麺つゆだけではなく、ゴマだれもあった。
こんな食べ方があるんだ。
へぇ~素麺を薬味と食べるんだ~はじめて~~。実家ではこんな食べ方したことなかったよ~~いただきまーす。
うまい。うますぎる。私が知っている素麺じゃない。ただの茹でた麺じゃない。料理だ。素麺はごちそうだ。薬味パワーすごいな。
その日私は「薬味トッピングの素麺おいしい」を呪文のように唱えながら素麺をたらふく食べた。
学生時代は自炊=節約だったので薬味で食事を豊かにする余裕はなかったが、食の世界が広がって食べられる食材や料理は増えた。それから社会人になり現夫と一緒に住むようになり専業主婦になって薬味の使用頻度はだんだん上がっている。
若干の経済的余裕と健康を考えた料理、家族と旬の食材を食べたいという気持ち、献立のマンネリ解消、Twitterで流れてくるお手軽絶品レシピ。そして薬味の美味しさを教えてくれた七夕の素麺の思い出。
いろんな要因が重なり合って冷蔵庫にミョウガの麺つゆ漬けが常備されているのだ。今日は大葉もある。
この前、NHKの『あさイチ』で薬味の特集をしていた。”祖母には薬味の数は愛情の数だと教わった” という視聴者からのメッセージ(大意)が読まれていて印象に残った。
なるほど。そうなのかもしれない。(もちろん、そうじゃないのかもしれない。)
にっこにこ