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3分で読めるIPCCの最新報告書の要約の要約-気候変動が進んだ社会はどうなるの?-

初めに

2022年2月28日に、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が、気候変動に対する適応の報告書(第6次評価報告書第2作業部会報告書)を発表した。これは、2100年までの今後数十年間にわたって、気候変動が進んだ結果、社会がうける影響を予測し、可視化した報告書である。つまり、数十年後の社会の姿を予測した結果とも言える。

専門家がまとめた報告書は、長く、また難解な表現も多いため、重要なメッセージを一部抜粋した。(他の要約記事も長い)
なお、Summary for PolicymakersやTechnical Summary(以下、それぞれSPM、TS)などからの複合的な抜粋ですが、項目の編成に筆者の主観などが入る部分はご容赦ください。また、誤訳や誤った表現がありましたら修正します。
以下の文献をもとにしており、より詳細、正確な情報は下記を参照いただきたい。

要約

気候変動によるすでに観測された影響(()内は、確信度)

  • 気候変動は、自然生態系(陸上、海洋、淡水)に対して極めて大きい影響を与えている(確信度:高い)[TS.B.1]

  • 生態系や人間社会への気候変動の影響は、地域間格差(国や地域など)が非常に大きい(非常に高い)[SPM.B.2]

  • 旱魃や山火事、サイクロンなどの異常気象は、人為的な気候変動によって引き起こされている(高い)[TS.B.2]

  • 短期間のうちに1.5度上昇となり、自然生態系や人間社会に与えるリスクや災害は避けられない(非常に高い)[SPM.B.3]

  • 先住民や途上国の人々など世界でおよそ33億人が、気候変動に対して脆弱な国々で暮らしている(高い)[TS.B.7]

図解:気候変動による影響(出典:AR6 WG2 政策決定者向け要約、環境省)

生態系において観測された気候変動影響

自然生態系については、陸域と海洋環境において、気候変動の影響が大きくなっている。どの地域においても、確信度が高いまたは非常に高いとされている。気候変動に対して脆弱な生物種の喪失や動植物の大量死などが観測されている。特に異常気象の頻発などが与える影響が大きいと予測される。(補足:オーストラリアやカリフォルニア州の山火事などは記憶に新しい)

人間システムにおいて観測された気候変動影響

人間社会への影響について、影響の種類(良い影響/悪い影響)や確信度は、地域間や影響の分野によって異なる。水や食糧供給においては、良い影響と悪い影響が同時に見られ、特に水供給に大きな影響を受ける地域は限定的となっている。一方、健康・福祉への影響は、どの地域においても悪い影響が観測されている。特に暑熱や栄養不良の影響が大きく、先進国においても観測されている。インフラへの影響においても、水害による損害だけでなく、インフラ設備全般に対する悪い影響、それに伴う経済損失も観測されている。

気候変動による予測される影響とリスク(()内は、確信度)

  • 生態系などに与えるリスクは温暖化が0.1度進むにつれて上昇していき(高い)、固有種や気候変動に脆弱な種の絶滅リスクが増大する(非常に高い)[TS.C.1]

  • 気候変動は食糧システムへの圧力を増大させ、栄養の質の低下や食品へのアクセスの低下などを引き起こす(高い)[TS.C.3]

  • 水リスクについて、旱魃や洪水に伴う社会的損害を増加させ、水循環が変化することにより農業や都市での水利用に影響を与える(中程度)[TS.C.4]

  • 気候変動により、感染症を含む様々な疾患の死亡者が増加すると予測され、高排出量シナリオの下では、今世紀末までに年間900万人以上の気候関連死が予測される(確信度:高い)[TS.C.6]

適応策の解決による寄与(()内は、確信度)

  • すでに気候変動の適応の計画や進捗は観察されている(非常に高い)が、現状の対策と必要な適応策の間にはまだギャップが存在する(高い)[TS.D.1]

  • すでに適応の限界に達している証拠が増えており(高い)、陸域及び水域の種及び生態系、小島嶼国や山岳地域などの特定の地理的地域の人間社会おいて観察されている(高い)[TS.D.2]

  • さらに地球温暖化が進むにつれて、沿岸地域社会や水の安全保障、農業生産、人間の健康などのより多くのシステムで適応の限界に達する可能性がある(中程度)[TS.D.2]

  • 農業集約化戦略は利益を生むが、トレードオフや社会経済・環境に負の影響が生じる(高い)ため、農業・漁業における生態系に基づくアプローチ(高い)や気候変動下での陸生・水生種の分布の変化に対応した持続可能な資源管理(中程度)にシフトすることで有効な適応策となる可能性がある[TS.D.5]

  • 気候変動から受ける影響は、性別、所得、階級、民族などのよって異なり(高い)、歴史的に疎外されていた社会コミュニテイを含めた公正、公平な意思決定プロセスを通して適応策を実施することが、短長期的なリスクに対処する気候正義に基づいた適応策である(高い)[TS.D.9]

 終わりに

以上を一言でまとめると、「気候変動が与える影響は、自然や人間社会のあらゆる分野(農業、漁業、医療、インフラ、経済そのものなど)において大きく、気温が上昇するほど増大していく」となる。
気候変動は誰に対しても大きな影響を与え得るため、ぜひ冒頭の資料にも目を通されることを推奨する。


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