本屋開業の種②取次での限界

K書房のはなし

「なんで本屋さんで本が売れないんでしょう。私たちができることってないんでしょうか。」

課長に訊くと、ある本屋の話をしてくれた。

「うちの取引先でね、K書房という本屋さんがあるんですけど、全然本が売れなくて、閉店寸前だったんですよ。でもね、『売れない文庫フェア』というのをやってね、人気が出て持ち直したんですよ。すごいでしょ?」
 
穏やかな口調で話す課長。その隣で話を聞いていた係長が、当時の新聞を持ってきてくれた。課長も係長も、誇らしげに新聞を見つめている。
その2人を見つめながら、私はますます混乱した。
 
「え。え。なんでそこで、取次のこちらが「売れる提案」をしなかったんですか?
 本屋さんが潰れそうになったら、取次もがんばって一緒に提案をするんじゃないんですか??」
 
私の問いかけに、2人は「そうだねぇ…」と答えた切り、何も言わなかった。
 
「そんなの…ただ送るだけで、売れる取り組みをしないんじゃぁ、ただの宅配便と一緒じゃないですか…」
 

当時の会社の経営状態

すべての取次が、このように何も提案しなかったわけではない。
革新的な取組を続けている取次さんも多くいる。
 
私の勤務先は、一度倒産しかかっており、リストラを行い、給与カットを行い、様々な資産を売り、なんとか持ち直して、ようやく新入社員を迎えるところまで来た、という段階だった。
 
早い話、予算がなく、本屋に何かを提案する力すら、残っていなかったのだ。
 
この会社も、かつては雑誌が創刊されると本屋に出向き、店頭でハッピを着てたたき売りをしていたという。
新規オープンのお店があれば、10人以上出向き、棚入れを行い、宴会も行っていたと。
 
ただ、私の入社した時期は、すでにそういった取次らしさは失われていただけのことだった。
 

取次は、ただ本屋を苦しめるだけだ。
ここに長くいても、私の求める答えはありそうにないな…
 
3年いても、気持ちが変わらなかったら、退職しよう。
入社して半年目のできごとだった。
 
そして、2年半後の春、退職する。

(つづく) 

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