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(小説)solec 3-5「プティ・クーデター」

 

 「全地球的ジャミングですね・・・。」
 第二作戦室には大勢の人が詰めかけている。みんな、普段は別の仕事をしているソレク軍のお偉い方だ。
「フレアを活用したんだろう。うまいな。」
宇宙研の委員長が言う。あの、使い物にならなかったヤシガニの設計もここだ。感心している場合ではない。
「15分前、テンシャン山脈に不時着したパイロットからホットラインです。報告によると、120機近くの爆撃機が西方へ移動中とのこと。」
「ならなぜみすみす逃した!」
  トゥラーティは激怒した。
「超音速でも追いつけなかったと・・。」
「どういうことだ?」
「緊急通信!「四葉の陣形」が非常に速い目標を捕捉。真っ直ぐ突っ切ってきます!」
「おい、今、敦煌じゃなかったか?」
  トゥラーティはキレた。
「現代のシルクロードは片道20分程度かね。全く信じられん世の中だ。」
感心している場合ではない。
「「四葉の陣形」(最終防衛ラインを規定しているソレク連合最強の防空エリア)が交戦を開始していますが、あまりにも速く、数が多すぎます。衛星は日本上空からこちら側へ回していますが、間に合いません!このままでは・・・ここが爆撃されます!」
「目標の5%を撃墜。敵、爆撃コースへ侵入。速すぎる・・・。爆撃は2分後です!」
「西アラルとオレンブルクがすでに爆撃を受けています。被害甚大・・・。」
「敵爆撃機数は31。」
「ダメだ。やられるぅ。」
「減りました30!」
「・・・四葉の陣形が破壊されました。」
「屋上からのスクランブル間に合いません!」
「目標視認!」
モニターに映し出される。30機の爆撃機。速い割に、でかい。この形状で超音速が出せるとはにわかには信じがたいものがある。感心している場合ではない。
「終わったな。再建計画はプラトンに任せよう。どうやら日本をなめておったようだ。」
  トゥラーティは達観した。
モニターに映る爆撃機、その一機にアップ。機体下部が奇妙に開き、無数の点が散らばる。


こんなことがあって言いわけが無い。

 


その時、画面が真っ白になった。

レーダー上から次々と爆撃機が消えた。
投下された爆弾はすべて空中で炸裂した。
爆音と風圧だけがソレクを襲い、それ以外はすべて消えた。
何が起こっている?

静まり返る。

そこへ一人のナルシスト男が第二作戦室へ入る。
「どーも。雑魚ども。一度死んでみた気分はどう?」

「ソ、ソレクが・・・。」

やっと辿り着いたころにはソレクの街の光は黒煙の中だった。絶望に浸るアレックス一同。

そんな・・。
「小隊長。妙です。爆撃機が見当たりません。」
「通信も回復しています。」
「ん?どういうことだ?。」

「さてと、お答えしよう諸君。私はソレク平和維持隊戦略デザインセンター第四技術室のロレンツォ・アルマーニ。そして今のエレガントなイリュージョンはうちの可愛い子犬ちゃん『ミスターアリストテレス』が無骨な高周波加速器4台を乗っ取って作った高エネルギーフィールドだよ。まぁ軍の頭の固い連中には技術のことなんてさっぱりだろうね。おっと君たちの質問はそうじゃないよね。」

「こいつ、何言ってんだ?」
「わかりませんが、緊急回線です。みんな聞いてるんじゃないでしょうか。」

「僕たちの目的は無能なソレク軍の代わりにこの戦争を勝たせること。僕たちは馬鹿なお偉いさん方が起こしてしまったこのくだらない戦争を勝利に導く。必ずね。勘違いしないでね、何も革命なんて大層なことがしたいわけじゃない。いつまでたっても始まらない共産革命を起こしたいわけじゃない。そんな陳腐な立場を押し付けないでほしい。僕たちは戦略デザイナーだ。勝利を提供するためだけの存在。僕たちを認めるも認めないも君たちの自由だ。認められないのなら今すぐ僕を殺せばいい。僕だけじゃ物足りないのならソレクタワーの地下3階の隅っこで僕の仲間がノートパソコンをいじっている。そこへ行ってみんな殺せばいい。」

「そういえば、ミスターありすとてれす?ってなんだ?」
「たぶん、僕たちの作戦支援システムである 『プラトン』に代わるものだと思います。」
「そういう名前の人じゃないのか?そもそも、そういうシステムがあったのか?」
「全く、小隊長は何も知らないんですね。」
「パイロットだからね。でも勝てるんだったらいいんじゃないか?」
「隊長、これクーデターっていうんですよ。」
「イタリア人のくせに、なんとも無礼なクーデターだな。」
「あ、でも政権奪取はしないみたいだから、プチ・クーデター?」

「まぁそんなわけで、総指揮者は僕がするよ。そう、そうやって君たちは銃口をこちらに向けていればいい。それが君たちの仕事だ。僕の仕事は何度も言うけれど、この戦争に勝つことだ。だけどね、脅迫めいてあんまり言いたくはないんだけど、僕たちがいなくなってこの国が、この連合がかつ可能性は1%もないよ。」
「わかったでしょ。情報戦では負け、ジャミングで通信も途絶して、ご自慢の無人機や大陸間弾道兵器も役に立たず、挙句の果て敵の爆撃機に首都の爆撃まで許しちゃうその体勢、それで、もうダメだ?笑わせんなよ。一緒に心中する身にもなってもらいたいね。最初に喧嘩吹っかけたのはお前らだろ。むしろ感謝してもらいたいよ。銃口を向けるだろうとは思ってたけどさ。』

「こいつ、案外かっこわるいんだな。」

「いいじゃないですか。人間らしくて。」

「若いねぇ。ロマンチスト坊や。」

「銃口を降ろせって言ってんだよ。遠回しに。わかんねぇやつらだな。勝ちたくねぇのか?そうだ。それでいい。」
『さぁ始めようか。ごめん。ちょっと時間掛かっちゃった。武士道ちゃん、作戦コードSDCf–30a04βでお願い。』


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