(小説)砂岡 2-0「オペレーション・プレアデス」
「パン・パン・パン、イルガタワー応答せよ。機体に重大な損傷あり、おそらく右エンジンが停止、左エンジンも出力が低下している。」
「…こちらイルガタワーより航行中の全てのACVへ。現在、染切半島南方約300キロメートルの海上にカテゴリー5の非常に大型のDSSの発生が大英帝国大気局により発表された。直ちにすべてのACVは開かれた最寄りの港へ退避せよ。イルガへ入港希望のものは周波数199.9へ。繰り返す・・・。」
いつだって嵐は突然、やってくるものだ。
そして、無線は続く。
「当カテゴリー5のDSSの予想半径と中心位置は1時間後に"35°16'22.03 N 17°46'34.55 E"、半径200キロ。2時間後に…3時間後に…こちらは英国宇宙大気局の発表である。繰り返す…」
無線をイルガの設定した緊急時特別バンドの199.9に繋ぐ。
「マーブルグランドライン224便、イルガタワー、半島沿岸は見えるか?」
「見えない。現在地はマーブル市南西およそ200キロ、どこでもいい、ターミナルへつないでくれ。」
「マーブルグランドライン224便、イルガタワー、砂塵のため陣屈海全域で通信困難。沿岸へ退避せよ。」
そこからマーブル航空管制部へたらい回さされる。
「マーブルグランドライン224便、状況は把握している。現在、イルガ港は入雅県における外交上の制約により入港を厳しく制限している。入れてくれないことはないだろうが、時間がかかりそうだ。ウェイポイントへの退避は危…..」
この瞬間から、無線は完全に途絶した。
例の自治宣言だ。ちっ。日曜日なのによく働くもんだ。船乗りをしている自分が言えたことでもないがね。
窓から南を覗くとすでに地平線の上に分厚い層が乗っかっている。あれが、数時間後にマーブル市や入雅市の都市に覆い被さってくるのだ。
※カテゴリー5の非常に大型:半径200キロメートル以上のものを示す
※広義には砂嵐、厳密には微小粒子と砂粒子の混合砂塵、または砂砂塵。環境省websiteより https://www.env.go.jp/air/dss/
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