(小説)solec 2-6「悪」
「最後まで、最後まで見てもらうよ!全部シナリオ通りさ。生命工学、神経科学、神経システム科学、暴力科学なんてのもあるんだぜ。一番辛い実験対象は、「自殺」だったかな。ねえ聞いてる?誰でもいいから聞いてる!??」
驚いたのはその会話中背景が大きく歪んだりカラフルな模様が現れたり、大都市の真上にいるような風景に切り替わったりするのだ。
「彼はどこにいるんでしょうね。」
「このレッドカーペットを辿ってくしかないだろ。」
暗くて気がつかなかったが、モニターが点灯したことではっきり確認できる。どこから続いていたのかは不明だが、レッドカーペットが敷かれている。至れり尽くせりだ。
「端末にレポートが届いたよ。この事件も、社会心理学のじっけんなんだろうね。もういいさ。どうせ最初からこのつもりだったんだろ。もういいさ。」作戦部のミーナは落胆する
便器だらけの部屋や蝶の標本、奇妙な折れ線グラフで満たされた部屋。それらはソレクだけでなく人間に対する憎悪を見る人に感じさせた。映像に映し出されているのは全身がバラバラにされた少女の遺体、そのそれぞれの部位に名札が付けられている。名札には天使の名前。壁面には一点透視図法で地平線だけが描かれた絵画が並べられている。天井のむき出しになった配管からは適切に温度管理された水が漏れている。
一体どこまで続くんだ・・・。
そう思った時、目の前に吊り橋が現れた。辺りは無造作に詰められた機械や配管ばかり。そこに、ぽっかりと開いた空間、そこに、吊り橋が1本伸びる。(その先にレッドカーペットは繋がっていない。)その向うに、白装束の彼がこちらを向いて立っている。安藤の姿はない。
隊員がみなレーザー標準を向ける。
吊り橋の向うの彼の表情は人間のものとは思えないほどに変質していた。だが、しっかりと笑っている。鬼だ。
そして、ふっと銃が手に現れ、こちらへ向かって撃つ。
「・・・、キタナァァァ悪党ヴェェェェ!」
同時にこちらも彼に連射する。
10秒間撃った。
静かになった。廊下のモニターは電源が落ち、赤いカーペットはまた姿を消した。
「隊長、怖かったですね。」
隊長の目からは涙が零れている。
「そうじゃない。そうじゃないんだ・・・。」
「爆撃機が来たぞ!」
1番機の隊員たちは必死で呼びかけている。
相手は有人のはずなのだ。発煙筒で合図を送るもの、広場や屋上へ出て手や旗に見立てた戦闘服を振るもの、地上に「SOS」と記すものがいた。
「撃つな!撃つんじゃない!同士討ちになる!」
彼を倒して、急に酸素レベルが危険値に達する。隊員はガスマスクを付ける。
そこへ通信が入る。
「お、おつかれさまです。私、ふくろうというものです。彼女は無事です。1番大きな第2収容所まで来てください。事情は来てから話します。急いだほうがいいですよ。」
誰だ?なぜ、無線が通じる?
「行こう。」ジャンとニコラが応える
「目標を視認。これより爆撃を開始する。」
本部から示された2機のスホーイが爆撃進入路へまわる。
「ん。あれはなんだ?」雑音越しに相棒が聞く
「さぁなんでしょうね。」
青い煙がもくもくと上がってくる。
手元の電子機器を確認するが目標地点に間違いは無い。
「どういうことだ。レイブン1。」
「あれは味方だ。複数箇所で上がってる。」
「こちらレイブン1。フォートレス。衛星から青い煙が確認できるか?」「あぁ連絡しようとしていたところだ。他にも妙なサインが出ている。さらに、維持隊と連絡がつかないときた。」
「なんだって?どういうことだ?」
「今確認を・・・。なんだって?それはどういうことだ?わかった。・・・レイブン両機へ爆撃は中止!維持隊が作戦中だ!繰り返す爆撃は・・。」無線が途切れる。
「レイブン2へ聞いたな?爆撃を中止する。無線もおかしい。一旦空母へ戻って・・・って、おい!聞いてんのか!」
「君たちには辛い仕事を任せてしまってすまない。」
銃口の先には大男。その手前にミコが倒れている。
「私は雇われの身なんだ。それに忙しい。君たちには感謝している。それでは、またどこかで。」
「おいレイブン2!」
レイブン2が高度を下げ、爆撃コースに乗る。とたんに、レイブン1もガクンと高度を下げる。
「退避!退避だ!通じない!来るぞ!」
1番機の隊員たちは迎えに着ていたAVFに乗り込む。
はぁはぁ。やめろ。肉眼で確認できる。人がいる!あの戦闘服は間違いなく平和維持隊だ。勝手にロックが外れる。
「やめてくれー!」
無情にも、2機で計4発のナパームが投げ出される。頭が真っ白になる。どうして。操縦が効かない。どうして。どうして!?
「リーダー。リーダー。機体を立て直してください!」
はっとすると、低空警告の表示が点滅している。急いで機体をもとに戻し、高度を確保する。そこから旋回。見上げると、遠くの地平線上で圧倒的なリアルが、噴煙をあげている。爆発は活動中の火山のごとく繰り返し繰り返し起っている。平和維持隊の基地もその南のバラックも団地も皆、あの爆煙の中だ。基地の人間もこれでは助からないだろう。
「なんてことをしてしまったんだ。」
「汚染がひどいな。」
研究所から漏れた薬品や実験用放射性物質などにより化学・放射能に汚染が広まっているため、爆心地から5kmは立ち入りが禁止されている。そのため救助隊は無人のロボットを使い要救助者を探す。
「しかし、こんな場所で生きてるのかね。」
火こそ見えないが、火災もまだ続いており、至る所から煙が上がっている。計器を見ても付近の気温が60℃を超えている。
「作戦部長、誤爆・・・だそうですね。」
「パイロットが失踪したそうだ。」
「絶対おかしいですよ。この事件。」
「だったらお前、調べるか?」
「まさか。」
不意にマイクが金属音をキャッチする。
「なんだ。」
その金属音はリズムを打っている。
「死人が歌ってるよ。」
END
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