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医学や医療、人間に少しも興味が湧かないけれど、生きるために医師になろうとしている人たちへ

 私がラッキーだなと思うのが、生物学を学んでいたことだ。

 生物学科に入り、博士課程まで進んだ。確かにいわゆる「バイオ系」は、90年代後半の雇用状況が最悪で、しんどい思いもした。

 けれど、生物学自体を嫌いになったわけではない。生物学というか、ライフサイエンス、生命科学への興味は尽きない。

 だから医学部に入り医師になり病理医になって、日々顕微鏡で患者さんから採取された組織を見続けていても、飽きることはない。確かに大量の標本にヘトヘトになり、辛いなとは思っても、この仕事に就いて後悔はない。

 ところが、医学部というところは、生命科学よりはむしろ数物系が得意だという人が集うところでもある。多くの場合、医学を学んでいるうちに興味が出るし、医学部高学年の臨床実習や研修医くらいになって、患者さんに接することで俄然やる気が出てくる。

 医学部時代低空飛行だった人が、医師としては生き生きとしているなんてことはザラだ。

 しかし、いくら学んでも、医師になっても、患者さんと接しても、医師としての仕事にサッパリ興味を持つことができない人もいる。むしろ人と接したくないとか、嫌悪感を抱くといった人もいる。

 食いっぱぐれがない、数物系を中心とした高校の勉強が得意だったという理由で医師になり、かついくらやっても興味もやる気も持てない人もいるわけだ。優秀な人なら、例えば司法試験などの難関試験を受けるなり、研究者になるなり起業するなり別の仕事に就いてもやっていけるのかもしれないが、他の仕事でうまくやっていける自信がない、研究などやりたくない、といった場合、結構辛いことになる。

 個人的には、医師には医師という仕事をやりたい人、人や医学、生命科学に興味がある人になってもらいたいが、人の心の中まで左右できないし、社会が厳しい状況にある中、どんな動機であろうと医師になろうとしている人を否定はできない。

 前置きが長くなったが、医学、生命科学、人間にサッパリ興味が持てない、かつ他の職業ではやっていけそうにない人が生きる道はあるのか。そのあたりを考察したい。


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