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劇場版スタァライト演出考察補足

前回の記事のおまけです。
ほぼツイッターで書いた分の焼き直しになります。また、前記事と重複する部分がけっこうあります。


前提

映像の演出には、舞台の上手(右側)、下手(左側)の関係があり、おおむね右にいるものは強く、左にいるものは弱いとされます。 右から左への動きは自然な流れと受け止められ、逆に左から右への動きは逆境への対抗となります。

前提1

登場人物の上と横にはそれぞれ下図のような空間があります。 ヘッドスペースは図に描いた程度の広さ、もしくは完全に無くして画面をシャープにすることが多いです。 ルッキングルームは画面の2/3程度が適正とされます。 この知識を前提として、劇ス本編を見ていきます。

前提2

華恋幼少期回想

ひかりが華恋に手紙を渡す直前のシーンです。 最初は俯瞰で2人の足元だけを映し、ひかりの「好き? それ」のセリフで図のような構図に移ります。 移動方向は右で、流れに逆らっています。転じて、ひかりが華恋を舞台に誘う勇気を出そうとしている表れとなります。

回想1

この直後、カメラが切り替わって2人は右から左へ動こうとしますが、ひかりが回り込んで止めてしまいます。 ここで出現する構図は、『戯曲 スタァライト』のフローラとクレールの配置です。 ひかりが華恋を運命に巻き込んだ事実を補強しています。

回想2

皆殺しのレヴュー

「なんだか、強いお酒を飲んだみたい」のシーン。 戸惑う純那の立ち位置は左=弱者のポジションで、ヘッドスペースも広く取られています。 その後のななのカットは右=強者のポジション、さらにルッキングルームが狭いことで失望、行き詰まりを示しています。

皆殺しのレヴュー1
皆殺しのレヴュー2

怨みのレヴュー

レヴュー開始直後の賭場シーンです。 2人が同時に画面に映る時、クロディーヌは“常に”香子の右に位置取っています。 香子にとっての逆境の象徴、怨みを発露すべき相手、強大な障害といったイメージです。

怨みのレヴュー1

ところがレヴューが香子と双葉のやり取りに移ると、今度は香子が右のポジションをキープします。 そして図の「表出ろや」のシーン後、双葉が右に移動し、本音を吐露することになります。 怨みのレヴューは、弱音は左から、本音は右から言っているようにも思えます。

怨みのレヴュー2

競演のレヴュー

まひるは最初、左からひかりに迫ります。 このシーンでのまひるは挑戦者であり、“華恋から逃げ出したひかり”という困難に立ち向かう者です。 アオリ気味のカメラ位置と、画面の手前に向かってくる動きによってダイナミックな迫力が生まれています。

競演のレヴュー1

一転してまひるが右側となり、ホラーじみた恐怖を帯びるシーン。 ヘッドスペースで空の暗さ、空間の冷たさ、空虚さを演出しています。 また、周囲を取り囲むスズダルキャット、とりわけ手前のスズダルが遠近法で大きく描かれることで、圧迫感が生まれています。

競演のレヴュー2

狩りのレヴュー

純那に三方を差し出し去っていくななは、皆殺しのレヴューの時と同様にルッキングルームを狭く描写され、無念さが表現されています。 この表現はレヴュー中もう1度採用されており、いかにななの心中が葛藤に満ちていたかが理解できます。

狩りのレヴュー1

純那の口上直後、舞台が切り替わったシーン。 この構図は非常に技巧的で、
・左右立ち位置の力関係
・頭上の刃が純那を威圧
・カメラが傾き、上下関係を生んでいる
・スモークが純那の向かい風となっている
と、これでもかというほどに純那いじめのカットです。

狩りのレヴュー2

純那は最終的に、“挑戦者”の立ち位置で勝利を収めます。 刀を拾い直した時にはスモークの流れが左から右となり、シルエットの殺陣を通して“強者”たるななを困惑させます。 ラストシーンの退場方向も、純那は“弱者”側である左方向です。

狩りのレヴュー3
狩りのレヴュー4

魂のレヴュー

最初はクロディーヌが“強者”として右側から攻め込みます。 しかし、真矢の衣装替えの後は2枚目のようにポジションが入れ替わり、クロディーヌは圧倒的な勢いに飲み込まれるように階段下へ落とされてしまいます。

魂のレヴュー1
魂のレヴュー2

けれども決着のシーンでは、純那の時と同様、左側のクロディーヌが”挑戦者“として勝利します。 劇スのレヴューは、開幕時とは演者の左右が入れ替わって決着します。 左に立っている純那やクロディーヌは、より“壁を乗り越える者”というニュアンスを帯びています。

狩りのレヴュー3

最後のセリフ

『戯曲 スタァライト』から始まる運命を原動力としてきた2人の関係が、区切りを迎えようとしています。 怨みのレヴューの時と同様、ヘッドスペースを切って両者の目と唇に視線を誘導するカットです。 この後、ラストでは華恋とひかりの立ち位置が入れ替わります。

最後のセリフ1

このカットこそ劇スの集大成ではないでしょうか。 これまで一貫して華恋が右=フローラ側、ひかりが左=クレール側となっていた立ち位置が入れ替わっています。 観客が親しんできた『レヴュースタァライト』は幕を下ろし、新たな舞台が始まろうとしているのです。

最後のセリフ2

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