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【HUNTER×HUNTER】キメラアント編で頭を使うシーン

HUNTER×HUNTERが4年ぶりに連載再開するらしいので、頭の準備体操的に読むのに頭使うなーってところをまとめます。特にキメラアント編にその傾向が大きかったのでその分だけです。
一応テーマ別にしてますが結構いい加減です。

■ブラフ

ハンタ世界の住人はみんな賢いので息をするようにハッタリをかまします。特に好きなのがこのシーン。

HUNTER×HUNTER28巻

ナックルの”天井不知唯我独損ハコワレ”は発動時にポットクリンを憑依させることができますが、それ自体はオーラの貸付額をカウントする機能しかないので、ここのナックルの「オレのポットクリンが盾になれるぜ」という発言はブラフです。ただし、前半の「奴が逃亡しても場所がわかっし」は真実です。

ナックルの思考として、ユピーとプフが王の下へ向かっていることは確認しているので、現状遊び駒となっている”天井不知唯我独損ハコワレ”を発動させる相手は実質的にピトーのみです。それを前提に、ゴンに対して『ピトーの反撃をハッタリで抑える』『ピトーの居場所を探知できる状態にする』という提案をゴンにしているわけです。

余談ですが、“天井不知唯我独損ハコワレ“はHUNTER×HUNTERの念能力でも私が特に好きなひとつです。一見、直情型のナックルには『一発打った後はひたすら逃げ続ける』のが最適解となる能力は合わないように思えますがさにあらず。『子供の頃に警官から一昼夜逃げ続けた』というエピソードや、『情に流される性格のために最適解を選べない』というひねりがうまく効いて高い完成度の念能力になっています。

『オーラを貸し付けて破産させる』能力にわざわざポットクリンを噛ませるのがセンスいいんですよね。『無害ゆえに無敵』とか言ってるけど、実際には『憑依先の相手はポットクリンが正体不明なために思考リソースを割かざるを得ない』のではっきりと有害です。こういうルールの裏を突いて有利ポイントを稼ぐ能力は呪術廻戦あたりにも受け継がれていて、やっぱりクールだし使いたいよねってなります。

キメラアント編でのブラフはもうひとつ。

HUNTER×HUNTER29巻

キルアの念能力は実際に電気を『充電』する必要があるため、『一晩中』プフから逃げ続けるのは不可能です。一旦どこかに隠れて充電ができれば確かに可能かもしれませんが、プフは分身で一帯の探索が可能なので、その現場を見られれば電源設備を破壊されて終わります。

事実、プフが分裂して宮殿中を把握した際には、キルアはメレオロンの能力で潜伏しており、プフがいなくなったことを確認してから充電を行なっています。

HUNTER×HUNTER27巻
HUNTER×HUNTER27巻

ただしこの後やってみせたように、キルアはプフに対して電撃で有効打を与えることができるので、待ち構える体勢になればより省エネでコムギを守ることができたでしょう。


■パームはどのタイミングで王の死を確信したか?

突入作戦の終盤、メルエムは『貧者の薔薇ミニチュアローズ』の毒素によって命を落とすことがパームによって語られます。

HUNTER×HUNTER30巻

ではこの結論に至ったのはどのタイミングでしょうか? まず考えるべきは、突入メンバーが『ネテロが薔薇を体に埋め込んでいる』件を知っていたのかどうかです。
これについて確定しているのは、少なくともイカルゴは知らなかったこと。そしてゴンと合流する直前の、キルア、パーム、メレオロン、ナックル、イカルゴが集合したタイミングでは薔薇の情報が共有されていないことです。

HUNTER×HUNTER28巻

これを考えると、突入チームには薔薇の件は知らされていなかった、仮に知っていたとしても、ノヴとモラウくらいだったと思われます(ノヴがモラウを迎えに来たシーンの表情からそんな感じはする)。
そもそもパームは宮殿に潜入した際、何より自分から情報が漏れることを恐れていました。そんな彼女が、王の討伐に直接関係する重要な情報を必要以上に頭に入れているはずはありません。

というわけで結論を言うと、パームが『薔薇の発動』を知ったのはまさに薔薇が爆発したタイミング、『(近い未来での)王の死を確信』したのはユピーが死んだタイミングです。このどちらも、プフが目撃者となっています。

パームは“淋しい熱帯魚ウインクブルー”によってプフの姿とその周囲の様子を常に認識しています。つまり、薔薇が爆発した瞬間も、プフがユピーの死体を見た瞬間も知っているのです。
薔薇の爆炎を見た時点では、パームにメルエムの生死を確認する術はありません。しかし、その後護衛軍の献身によってメルエムが復活したことはわかります。

HUNTER×HUNTER28巻:薔薇の開花を確認

この時点でパームのすべきことは何か? ピトーをメルエムから遠ざけること・・・・・・・・・・・・・・・・です。

ピトーに治療能力があるのはすでにパームも知っています(自分も修理・改造された)。では、”玩具修理者ドクターブライス”は純粋な怪我だけではなく、薔薇の毒素も治療することができるのか? それは突入チームの誰にもわからない情報です。わからないのなら、『ピトーが王の毒を取り除く』という最悪の展開を防ぐ必要があります。

HUNTER×HUNTER28巻

ピトーがゴンと共にペイジンへ行くのは、パームの視点からも願ったりな状況でした。ところでここでピトーではなくゴンを能力対象にするのが、仲間思いな一面を感じられて好きです。
前述した通り、パームがやるべきはピトーとメルエムとの接触を避けることなので、この場面で見るべきはゴンではなくピトーです。実際ゴンがゴンさんになったあと、パームはピトーの行方を見失ってしまっていました。ピトーを見てさえいれば、少なくともピトーが死亡したことはわかったはずです。しかし、パームはゴンを能力の対象としました。この選択に、直前のキルアとのやりとりが影響していると考えても間違ってはいないでしょう。

HUNTER×HUNTER28巻

さて、その後メルエムの帰還からナックルとメレオロンが捕われてしまうわけですが、この時点では最悪の場合、『キメラアントには薔薇の毒が効かない』可能性もありました。そもそも薔薇の毒が遅効性であるため、『潜伏期間なのかまったく効いていないのか判断できない』のです。

ですが、プフの視点を通してユピーの死体を確認したことで、『蟻にも薔薇は有効である』という確信が持て、結果的にイカルゴに対しての「王は死ぬ」発言に繋がったのです。
ここに至るまで仲間の誰にも薔薇のことを喋らなかったのは、前述した通り蟻側に情報が漏れる可能性を少しでも減らすためでしょう。ノヴが宮殿に潜入した時何より恐れていたのは自分から作戦の情報が漏れることでしたし、パームがビゼフに取り入った時も、護衛軍の接近を察知したと同時に自害しています。

HUNTER×HUNTER29巻:メルエムの死を確信

キメラアント編は仲間にすら情報を伏せる戦略が敷かれています。ネテロがゼノの“龍星群ドラゴンダイヴ”を奇襲に用いる作戦すら共有されていなかったわけです。序盤でポックルがピトーに脳をいじられて念能力の知識を与えてしまっているので、無理もありません。

■護衛軍の念に対する知識

ポックルの話が出たのでついでに語っておきます。作中で描写のあるポックルがピトーに漏らしてしまった念の情報は六系統や水見式についてですが、それだけとは限りません。むしろ、少なくともポックルの知る限りの情報は奪われているはずです。
なんなら東ゴルトーに存在していた念能力者から新たに情報を得ることもできていたはずなので、作中で説明されていた念の情報はほぼ確実に護衛軍も知っていたことでしょう。

その証拠がいくらかあります。
まず、プフがモラウの“監獄ロックスモーキージェイル”に閉じ込められた時。プフは積極的に攻撃するわけではなく、蛹となってモラウに神経戦を仕掛ける選択をしました。自身の能力を活かした戦略ではありますが、それ以上にモラウを殺してしまうわけにはいかなかったはずです。死後の念によって永遠に閉じ込められる危険があったのですから。
単純に肉弾戦が不得意であるという可能性はあるものの、倒すことよりも分身を煙の外に送り込む方を選ぶだけの前提知識として、『死後強まる念』は機能していたと思われます。

次に、モラウのキセルを破壊するのではなく川に捨てたことです。
愛用品を使用する念は、それを失えば能力の使用ができなくなる。そこまでは知識として持っていたでしょう。

HUNTER×HUNTER27巻

しかし念にはフェイタンのように『攻撃を受けることで発動する』カウンター型のものがあり、それが愛用品への攻撃で発動する場合があっても不思議ではありません。プフは分身で無数に手を増やせるので、万一キセルへの攻撃で発動する能力があった時のために『遠くへ捨てる』という選択をしたのでしょう。

ところでこの考えと一見矛盾しますが、ユピーがシュートの“|暗い宿⦅ホテル・ラフレシア⦆”で複眼を奪われた際、「殺しとけば肩の霧は消せたかも知れねェのに」と考えています。ではユピーは『死後強まる念』の知識がなかったのでしょうか。
この件については、知識があったとしても特に不都合はありません。そもそもこの時点のユピーはイライラで冷静さを欠いていましたし、複眼1個を失ったところでさほどの痛手ではありません。

ここまでは、護衛軍(特にプフ)が知っていたであろう知識の話です。
では逆に、知らなかったことはあるのでしょうか。

これは明確に作中に描写があります。ナックルのポットクリンです。
ポットクリンに対してユピーは「何だこいつは!?」と言っており、プフは「トンガリ頭はユピーの新能力…?」と考えています。実はこれはちょっとおかしい描写です。

なぜかというと、ヂートゥにポットクリンが憑いた時、レオルはヒナに除念させています。つまり、レオルは護衛軍に『ポットクリンを除念した』という情報を伏せているのです。
レオルの野心を考えれば、除念師という強力な札を隠しておくことも、ポットクリンの容姿を共有しないことも不思議ではありません。

HUNTER×HUNTER25巻

ここでさらに疑問が湧きます。プフは、ヒナが除念能力を得ている事実を知っていたのでしょうか。
これはNOであると考えます。『死後強まる念』と同様に、除念のこと自体は知っていたと思われますが、ヒナが除念師であった場合、そもそも『ヂートゥの除念自体許可されない』可能性が非常に高いです。
除念は作中で示されたように術者へのフィードバックがあり、無制限に行使できるものではありません。となれば、もしプフがヒナの能力を知っていたなら、ひたすら『王が除念を必要とした時のために温存しておく』に違いありません。

ここから考えると、プフの『他人の能力開花を助ける能力』も少し実態が見えてきます。おそらく、具体的にどのような能力が身につくかはプフ自身にはわからないのです。あくまでも対象の能力者の適正に応じて能力を引き出すだけで、具体的にプフに対して「こんな能力が欲しい」などと相談したりはしないのでしょう。
ヂートゥがモラウに対して使用した、異空間に8時間閉じ込める能力も、もしプフが具体的な能力の設計に関わっていたならあり得なさそうな無駄の多さです。“紋露戦苦モンローウォーク”を覚えた際に「修得に手間どっててさ」と発言していることからも、あくまで能力の構築は術者本人が行うものだと推測できます。新能力の固着までプフが付きっきりなどということはないわけです。

HUNTER×HUNTER25巻

全体的に、キメラアント編は敵味方双方とも『誰が何を知っているか』という情報戦の側面を呈していました。おかげでえらく頭を使わされますが、それだけ唯一無二の面白さがあると感じます。


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