えんむすび喫茶館 第5楽章

いとはとても切なげな表情だった。

ウメは糸が口を開くまでそっと
見守っていた。

糸は華族の家系である。
苗字は朝友(あさとも)

朝友糸は5人家族、兄と妹がいる
家族全員、才色兼備である。

5月のある日、朝友家の屋敷に
1人の男性画家が家族が全員
朝友家一人一人の
肖像画を描きにやって来た。

花村実(はなむらみのる)
有名な画家、37歳、独身、
長身で端正な顔立ち、
無口であったが、誠実な男性であり、
画家の世界では評判も良かった。
絵画に対しての情熱は本物であった。


本日はよろしくお願いします。
低い声で挨拶をした。

父は不器用だが誠実で人柄は良いと
実の性格を理解して、認めていたので
代わりに絵を描く時に
フォローをしていた。


この日が生活を淡々としていた
糸にとっては全ての生活が
牡丹の花が咲き乱れたように
七変化した日だった。


糸にとってはこの恋が初恋で
ときめきを隠せない程に頬を赤く染めて
胸を熱く焼き焦がす。


立っている時に目が合う度に
恥ずかしくなり、
下を向いてしまいそうになる。


こんな想いは糸にとっては初めてで
戸惑った。恋とはこのようなものなのか、

何回か実が肖像画を描きに来た。

糸の胸は高鳴る。

糸は描かれる順番が
学校の都合で最後になった。

糸はしおらしく座っている。

沈黙。実の大きな手、眼差し、
一生懸命無口で筆を動かしている
実の虜になっていた。


見られている。


目が合う。

胸が痛い。

肖像画が描き終わり、
実の来る日が最後の日となった。


朝友家にて食事会、
沢山の御馳走が並んでいる。


父、母、兄、妹で話が弾み、
糸と実は席が隣同士だが
お互いに無口。


勘の鋭い妹、雅子は姉が
糸の実への恋心を感じ取っていた。


実は長居をせず、
肖像画が仕上がったら
お持ち致しますと去って行った。


糸は自分の部屋に戻り、
ベッドに入ろうとした時に
雅子が

お姉様、お話ししたい事があるの



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