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自由詩 小品集 - 見えざる手

一.
雑駁のしじま
哀憐のはざま
何者や行かむ

岩頸のさだめ
茫漠のさとり
何者や聞かむ

春芽はなやぐ花里の夜


一.
祖父らの卒塔婆、緑陰に聯亙す


一.
論理の旋律に美が宿るとき
それは数式の美と寸分違わず
四次に根ざした五次元の
悟り身籠る素粒子降れり


一.
自己存在を探求されるが宜しかろう
無無明亦無無明尽
自己などというものは何れにもあらぬ


一.
松籟を覚えさざめく膚
我が半身鵞毛と相成りて
青旗木幡 三叉路を往くまで


一.
暗がりに美を認めるとき
染染としたあの胸のつかえは
あくがれいづる魂を呼びかへす
浸透圧の作用に他ならず
すると私というものはやはり
魂の一過の拠り所
諸君、思想の旅を続けよ
過日の誉を求め続けよ


一.
紅のひかれぬ木蓮が
わたしの不安をはらりとひらいて
あヽ拍動よ幽かに聞こゆ
わたしの代わりに木蓮として
血潮そのものとして
空を駆り只伸びるべし


一.
遠くに僅かな周波数で
あの声が在ったことを
知らせるかのよう
言霊は帰り道を知らぬまま
あたたかな巣を与えられぬまま
ついと生み落とされ
さぞ淋しかろうと思います


一.
夢幻のように思われることもあれば
うつつを地の底まで感じることもある
確証はいつも不確定性を持ち
ただ不思議なもので
わたしにあの夏があったことは
年々確かになってゆく


一.
弦のたはむれに
うずくまるばかり
力のみなもとに
申し訳のないかぎり
苦し紛れに私の指は
宙を掻く 蓮花寺に
火影のゆらぎ
ほとぼり覚めれば
あれもまぼろし
これもまやかし




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