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【大人との対話】イベントレポート #2. 予防医学研究者 石川善樹

自分なりの答えを見つけよう

さまざまな分野で活躍するオピニオンリーダーから直接話を聞き、学校や家庭とは違ったアプローチで子どもたちの興味・関心を広げるイベント『大人との対話』。予防医学研究者の石川さんをゲストに招いた第2回では、子どもたちが普段抱いている悩みや素朴な疑問をテーマにした自由な対話が行われた。

登壇者紹介

石川善樹 / 予防医学研究者、博士(医学)
1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。公益財団法人Wellbeing for Planet Earth代表理事。「人がよく生きる(Good Life)とは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学、概念進化論など。近著は、『フルライフ』(NewsPicks Publishing)、『考え続ける力』(ちくま新書)など。
https://yoshikiishikawa.com/

学校に気の合わない先生がいます

Q:気の合わない先生がいて、家に帰って親に相談したり、友だちと遊んで気分転換しようとしても、イライラが収まらない時があります。どうしたら解決できますか?

石川さん(以下 石川):世の中にはいろんな人がいるから、合わない人とは無理に合わせなくていいし、全ての人に認めてもらおうとしなくてもいいと思います。僕も大学の先生と全く気が合わなかったんです。大学は卒業論文という長い作文を書いて合格をもらえたら卒業できるのですが、その先生に見せたら「これじゃ駄目なので卒業させない」と言われました。でも他の先生はすごくいい作文だと褒めてくれたんです。それまで先生というのは偉い人だと思っていたんですけど、同じ先生でもいろんな人がいるんだ、そしてあの気が合わない先生は僕にエネルギーを与えてくれていたんだということがわかりました。気が合わないからイライラするんですけど、その気持ちはやる気とかエネルギーに変換できるんです。今では僕はその先生にすごく感謝しています。気が合う人だけ周りにいて、ずっと楽しく生きてきたら、いざ気が合わない人に出会った時、大人になってからでは対処するのが難しいです。今はその練習をしていると思えばいいのではないでしょうか。すごくいい経験をしていると思いますよ。そうして時間が経ってその先生に感謝できるようになったら、成長したんだと自分を誇ってあげてください。

気まずい関係の友だちとどう接したらいいですか

Q:嫌なことを言われて気まずくなった友だちと、係の仕事で一緒になるので困っています。本当は悪い子じゃないから仲良くしたいけど、考えだすとどんどん嫌な気持ちになります。

石川:一旦気まずくなると、仲良くするのはなかなか難しいですよね。悪いのは友だちだと思っているから、自分がかわいそうになってどんどん辛くなる。そういう時は「どうしたら仲良くできるか」ではなくて「かわいそうとは何か」と考えてみてください。まずは今自分が感じている気持ちについて掘り下げてみるといいと思います。目の前の問題をすぐには解決できなくても、きっと糸口が見つかるはずです。また考えを深めることで、他の問題にも対処できる力が身につきます。人は弱いから、困った時すぐに答えがほしくなりますが、子どもの頃から手軽な解決策ばかり選んでいると、周りに頼る癖がついてしまいます。友だちとトラブルがあった時はチャンスだと思って、この今の感情は何なのか、自分に問題を出してみてください。僕は小学1年の時、「1足す1は2」の「足す」の意味がわからなくて、「僕と机を足したら何になりますか?」などと先生に質問しまくっていたら「うるさい!」と怒られました(笑)。たぶん先生も「足すとは何か」をわかっていなかったんだと思います。でも大学の授業は「足すとは何か」から始まります。大人になると「〇〇とは何か」にどう取り組むかがすごく問われるようになるんです。人によって答えが違うのも面白いところですから、今日帰ったら、お父さんとお母さんに「夫婦とは何か」を聞いてみるのもいいかもしれませんね(笑)。

海洋プラスチック問題について政府は何をしていますか

Q:海洋プラスチックの問題をテレビで観て、自分たちが使っているプラスチックが海の環境を荒らしていることに驚きました。政府はどんな取り組みをしていますか?

石川:そもそも「政府」とは何だと思いますか?政府からみなさんに海洋プラスチックの除去命令が来たりしていないですよね。政府が何で、どんな人がいて、どう動いていて、どこまで影響力があるか、その全体像は教科書にもインターネットにも載っていません。海洋プラスチックの問題について知りたいと思ったら、本で調べたり人に聞いたりするのではなく、海に行ってペットボトルで海水をすくって、中にどのくらいマイクロプラスチックが入っているかを調べてみたらいいと思います。そのくらい小さなことでいいから、まずは自分でやってみるのが大事です。疑問が浮かんだ時、検索してすぐに答えが出てくると、そこで満足して終わってしまうことが多い。でも自分でやってみるとわからないことが増えていって、もっと知りたいと思うようになります。普段何気なく使っている言葉でも、改めて考えてみるとよくわからないことが結構多いですよね。政府が何をしているのか疑問に思った時、「いや、待てよ、政府って何だ?」と小さなところから立ち止まって考えることが重要だと思います。そうしていくと、海洋プラスチック問題のゴールが政府じゃないということにも気づくと思いますよ。

貧困をなくすために何ができますか

Q:SDGsの中に「貧困をなくそう」という目標がありますが、募金活動とベルマーク運動以外にどんなことができますか?

石川:貧困をなくすためには、まず「貧困」とは何かを決めなければいけません。では一旦「貧困」とは「幸せじゃない状態」ということにしましょう。幸せじゃない人というのはどんな人ですか?食べ物がない人?生まれてすぐに親が死んでしまった人?ではここに孤児が100人いるとしましょう。全員に「幸せじゃないですか?」と聞いたら、全員「幸せじゃない」と答えるでしょうか?こうやって「貧困」とは何かを定義していって、例えば親がいない人が幸せじゃない確率が高いとするならば、親がいない人に何ができるかを考えることで、自分なりの貧困対策が見えてきます。「貧困」は「貧しい」と「困っている」を組み合わせていますよね。ここがややこしいところで、貧しくて、かつ困っていないといけないわけです。では「貧しい」とは何でしょう?お金だけの問題でしょうか?では「困っている」とは何でしょう?悩みがあると貧困ですか?こうした問いがすごく重要で、すぐ答えに飛びついてはいけないんです。大抵の大人は結論しか言わないので、本当に大事なところは教えてくれません。答えがあるものは誰かがやってくれますから、みなさんにとって大事なのは、立ち止まって考え、自分で体験することです。

なぜみんなSDGsに本気で取り組まないのですか

Q:SDGsはもっとやろうと思えばできるはずなのに、どうしてみんな本気でやらないのですか?

石川:SDGsに本気で取り組んだら何かもらえると思います?何をもらえるかわからないものに人は本気になれるでしょうか?例えば、みなさん全教研で勉強していますよね。ただ「勉強しよう!」と言われても、本気でやれますか?SDGsについて考えると大きくて抽象的になりますが、人がやる気になるにはどうしたらいいかを考えると、もっと身近なところから探ることができると思います。自分がどんな時にやる気になるかを考えたり、大人がどうやってやる気を出しているかを観察したり。もっと言うと「本気」とは何でしょう?「お昼ごはん、本気で食べていますか?」と聞かれたらどうですか?本気で食べなくていいんでしょうか?ずっと本気なのは大変そうだし、続かなそうですよね。僕が携わっている医学の世界で起こったことなのですが、アフリカでエイズが大流行した時、大人たちが本気になって対策をしました。そしたらエイズには効果があったのですが、人もお金もそっちに費やしてしまったので、心臓病や糖尿病などの対策が手薄になって、結果、他の病気の死亡率が上がってしまったんです。そんなふうに、みんなが一つのことに本気になると、他の大事な問題に目が向かなくなる可能性もあります。すると今度は「なぜみんなSDGsを本気でやらないのか」という問いで本当にいいのかという問いが出てくるわけです。こうして考えを深めていくと、もっともっとたくさんの疑問が出てきて、どんどん楽しくなっていくと思います。

参加者の感想

今回は全教研に通う小学生12名が参加。子供たちに答えや正解を教えるのではなく、自分で考えるきっかけを与えることで、またその先に新たな疑問や好奇心が生まれる有意義な対話となった。終了後、参加者の中から3名に感想を聞いた。

加藤さん(小学6年生):将来お医者さんになるのが夢で、石川さんのお話を聞きたいと思って来ました。普段使っている言葉を深く考えるのは少し難しかったけど、面白かったです。

卜部さん(小学5年生):人との関わり方で悩むことがあって、何か解決の鍵になればと思って参加しました。難しい話もあったけど、なるほどと思うこともたくさんあって、すごく参考になりました。

古賀さん(小学5年生):いろいろな話が聞けて、自分が言いたいこともしっかり言えたので楽しかったです。また機会があったら参加したいと思います。

『大人との対話』は第3回以降も近日中に開催予定。noteでも随時レポートを公開していく。