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両目を持った王様

ある国に、澄んだブルーの両目をした王様がいました。その美しい目は、何でも見通すことができる不思議な力を持った両目でした。悪い思いや行いはすぐに王様に知られてしまいますから、この国では泥棒に入られる家は一軒もありません。

国民は王様のことを大変誇りに思っていました。国民は王様のために一生懸命働いて、国はどんどん豊かになっていきました。

そんなある日、王様は側近に言いました。
「国は毎年豊かになっているが、まだまだ貧しい民がいる。そこで、蔵に眠ってある王家の宝を貧しい人たちに分け与えてはどうか」

「王様、それはとてもよい考えです。一人でも貧しい民がいれば、決してよい国とは言えません。王様への尊敬の念はさらに高まり、今以上に豊かで平和な国になるでしょう」

この話を聞いた多くの病人や貧しい民たちが、国中から王宮に集まってきました。王様は自ら集まった一人ひとりに優しい言葉をかけて、王家の宝を分け与えました。

一方、隣の国では、とても欲の強い王が君臨していました。欲張りな王は隣の国の噂を聞きつけると、すぐに家来を呼びつけて命令しました。
「いい儲け話があるぞ。隣の国では、貧しい民に王様が自ら宝を分け与えているそうだ。お前たちも病人や怪我人を装って宝をせしめてこい」

この話を聞いた家来たちは、あまりにも王の欲深さに言葉を失いました。しかし家来たちは王様に逆らうことはできません。嫌々王様の命令に従うことにしました。

数日後、家来たちは宝物をたくさんもらって帰ってきました。王は家来たちの宝を全部取り上げ、自分の宝にしました。家来たちは嫌気がさして、自分の国を捨てて隣の国へ去ることにしました。

家来たちがどんどん去っていく状況を見て、王様は考えました。
「あちらの王様は何でも本質を見抜く不思議な両目を持っているそうだな。そいつの両目を奪い取ってやろう」

最後に残った側近は必死に王に訴えました。
「そんな恐ろしい考えはお止めください。どうかお心を改めてください」

しかし家来の説得は逆効果でした。王は大きな声を出して怒りました。
「お前は王の私に指図する気か。反逆罪で厳しく裁いてやる」

結局、最後の一人の家来もつ愛想を尽かして、隣の国に逃げてしまいました。孤独になった王様は、隣の国の王様を逆恨むようになりました。
「全てあいつのせいだ。絶対にあいつの両目を奪ってやる。そして家来たちを取り戻す。そうだ、私が盲目を装い、やつの両目がほしいと懇願すれば、きっと断れないはずだ」

欲ばりな王は盲目のふりをして、隣の国の王様のところにやってきました。
「王様、どうか私の願いをお聞きください。私を救えるのは王様だけです」

「目が見えないにもかかわらず、よく私を頼って来てくれた。お前の望みを何でも叶えてよう。さあ、何がほしいのだ。言ってみなさい」

「王様の慈悲深いお心遣いに感動いたしました。私は生まれながら両目が見えなく、暗闇の人生をずっと過ごしてきました。ですから、このようなすばらしい国を築いた王様がどのようなお方か、ぜひ一度自らの目で拝見したいのです。そこで、王様の両目を私に譲ってもらえないでしょうか」

王様はあまりの唐突な願いに驚きました。
「えっ、私の両目がほしいのか」と聞き返しました。

盲目を装った王は頭を深々と下げて懇願しました。
「はい、ぜひとも、王様のその美しい両目を頂戴したく存じます」

王様をしばらく考えて答えました。
「わかった。それほどいうのであれば、私の両目を喜んでお前にあげよう。私の目が民のために役立つのであれば、これほどうれしいことはない」

家来たちは王様の決断に驚き、王様に思い留まるように説得しました。
「王様、正気とは思えません。この国は王様のその両目のおかげで豊かになり、民たちも幸せに暮らせていけるのです。王様の両目こそが国の宝です」
家来だけでなく、王子も言い寄ります。
「お父様、そんなに言うのであれば、代わりに私の両目をお使いください。私の目であれば、失っても誰も困りません」

王様は皆の意見を聞いた後、落ち着いた声でゆっくりと話し始めました。
「わたしは、何でも叶えるとこの者と約束をしたのだ。約束は破るためではなく、守るためにある。両目を失っても、心の目は今まで以上の働きをするであろう。さあ、はやく、ナイフで私の両目をえぐりなさい」

その時でした。別の家来が王様の前に駆け寄ってきました。
「その者は偽者です。盲目のふりをした隣の国の欲深い王です」

その声は、かつて欲深いこの王から逃げ去った家来でした。盲目のふりをしていたことがばれてしまった隣の国の王はその場から逃げ出そうとしましたが、周りの家来たちに取り押さえられてしまいました。

その時でした。王様は声をあげました。
「待て。その者が隣の国の王で、盲目のふりをしていたことはわかっていた。それでも私は約束したのだ。約束は守られなければならない」

そういって王様は自らナイフで自分の両目をえぐり取り、血だらけの両目を掌にのせて、隣の国の王に手渡しました。
「さあ、私の両目を受け取りなさい」

隣の国の王の手は震え、無意識のうちに涙がぼろぼろと流れてきました。両目を失った王様は、血だらけになりながら痛みを必死にこらえ、やさしく言いました。
「この両目はもうあなたのものです。あなたの目です。何でも見渡せ、国を豊かにし、民を幸せにすることができる不思議な力を持った正義の目です」

隣の国の王は深々と頭を下げ、急いでその場を去っていきました。
さて、それから数年後、両目を亡くした王様の耳に噂話が入ってきました。
「隣の国の王が生まれ変わったように慈悲深くなられたそうだ。民たちの幸せを第一に考え、国は豊かになったらしい。すばらしい王様が他国にもいるとは、世も捨てたものではないな」

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