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おしどりを殺した武士

戦で負けた武田軍の武士は、何とか敵地から逃れることができました。
その武士はまた武功を上げて、最前線に返り咲ける時が来るまで弓剣の腕を磨くことにしました。

武士は或る日、狩りに出かけました。おしどりの夫婦を見つけ弓矢を放ちました。矢は雄おしどりを射抜きました。武士は刀の切れ味を確認するために雄おしどりの首をはねました。

一年が過ぎ、武士は再び狩りに出かけ、雌のおしどりを見つけました。狙いを定め弓矢を放つと見事に雌おしどりを射抜きました。獲物を手に取ってみると、死んだ雌どりの片方の羽には、既に骨となった雄のおしどりの首を抱いていました。

武士はその骨となった首をみて、かつて自分が仕留めた雄おしどりだったことに気づきました。
「おしどりのような小さな水鳥でさえ、互いの命を慈しみ合う心があるのか。今まで武士として敵の命を奪い、武功を上げることばかり考えていた自分が情けない。私の生き方は、本当に正しいのか」

武士は、自分を深く恥じ、何年か修行の旅に出かけました。
武士は数年後その池の畔に戻ると、草庵を建て農作業をしながらを細々と生活することににしました。そうして村人達に、おしどりの話や命の尊さを語りながら一生を送りました。

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