人間論 自己確立の方法

はじめに

あなたは幸せですか。

きっと自信を持って「はい」と答えられる人は少ないのではないでしょうか。それどころか、私たちは、毎日、齷齪(あくせく)して、大なり小なり苦悩を抱えながら生きています。

これは毎年約三万人近くの自殺者がいる事実からも明らかです。自殺者数が一向に減少しないのは、社会全体が物質的に豊かになっても、人々の〈こころ〉が荒んで幸せではないからです。今の時代、平穏無事な〈こころ〉の教育が急務であることは言うまでもありません。

しかし〈こころ〉の教育で起こり得る典型的なミスは、〈もの〉を徹底的に否定することです。「〈もの〉が豊かになり、〈こころ〉が駄目になった」という批判は簡単に出来ます。(私は唯物論者ではありませんが、)〈もの〉をどんなに否定しても人間の生活は〈もの〉無くしては成り立ちません。ですから〈もの〉を否定するということは、現実を無視した非現実的な考えです。

〈お金〉についても同様です。「〈お金〉が必要以上にあると〈こころ〉が乏しくなる」といった単純な主張は、決して正しくありません。「君子財を愛し之を取るに道あり」といった言葉もあるように、〈お金〉に問題があるのではなく、〈お金〉をどのように使うかというこころが問題なのです。

〈お金〉や〈もの〉に溺れてしまう弱さを持つ〈こころ〉とは何かといったところまでしっかりと考えることが大切です。例えば、牛乳瓶には二〇〇CCの牛乳しか注げません。どんなに無理をしてもそれ以上注ぐと溢れてしまいます。しかし〈こころ〉は違います。人間は感受性が豊かになればなるほど、ものごとを受け止める〈こころ〉の許容量は増していきます。逆に〈こころ〉が乏しくなると、その器はどんどん小さくなります。つまり〈もの〉は一定の水準にしか対応できないのに対して、〈こころ〉の許容量は無限です。

ですから、自分の脳力や理解度の限度を勝手に決め付けずに〈こころ〉を鍛えることは、将来の可能性を広げることにつながるのです。努力家や勤勉家が日々益々前向きでポジディブな思考のもとで活き活きと生活するようになる一方で、怠惰な人たちは益々無力になって堕落していくのは、こうした〈こころ〉の法則があるからです。

〈もの〉や〈お金〉は分ければ自分の取り分は減っていきますが、〈こころ〉の豊かさ、愛情、思いやりなどは、どんなに分けても減ることはありません。それどころか、強い絆で結ばれる豊かな人間関係を作り上げます。今の厳しい時代にこそ誰にでも惜しみなく幸せを分け与えることのできる慈しみの〈こころ〉は必要だと思います。

以上のような〈こころ〉のあり方を念頭において、どんな時代でも生き抜く自己を確立する方法を以下の4つの視点から論じてみたいと思います。
 ①レジリエンス力
 ②問題解決力
 ③コミュニケーション力
 ④共生力
この厳しい時代に生き抜くための強い〈こころ〉を養うヒントになれば幸いです。

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