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牛乳を飲んだお釈迦様

お釈迦様が風邪で高熱を出した時、弟子のアナンを呼んで言いました。
「すまないが、喉が渇いたから山の麓の集落まで行って、牛乳をもらってきてもらえないか」
「わかりました。すぐにもらってきます」

アナンは急いで集落に向かいました。その途中に、集落では頭がとてもよいと有名な維摩に出会いました。維摩は出家していない身ですが、悟りを開くほど仏教の智恵に長けており、仏教のことは弟子のアナンよりも精通していました。

そんな維摩がアナンに話しかけてきました。
「アナンさん、そんなに急いでどちらまで」

アナンは、お釈迦様が病気で、栄養をつけてもらうために牛乳をもらいに行くことを伝えました。すると、維摩はアナンがどれだけ仏教を理解しているか試すために、質問しました。
「そんなことをしてはダメです。すぐに帰ったほうがいい」

アナンは維摩に聞きました
「なぜですか」

維摩はため息をつきながた、首を横に振って答えました。
「お釈迦様は、仏様だ。仏様は、病気になったり苦しんだりはしない。ましてや動物の体内から取れた牛乳など、生臭い飲み物を飲みたいなどと言ったりはしない。牛乳をもらいに行ったことが知れ渡ると、お釈迦様が恥をかきますぞ。早く帰ったほうがいい」

アナンは維摩が言ったことも一理あるし、だからと言ってお釈迦様からの頼みもおろそかにはできません。そしてアナンは困って、その場に立ち尽くしてまいました。

そこでアナンは、お釈迦様ならどのように答えるか考えました。アナンは以前、お釈迦様が苦行を捨てて悟られた説法を思い出しました。
「そうだ。苦行を続けても何も得られない。そればかりか自分の身心を傷つけるだけだ。まずはしっかりと身体を調えることが大切だ。そのためには臨機応変に行動しなければならない。一つのことに縛られて、大道をあきらめることになるのは本末転倒だ」

そう考えたアナンは維摩に答えました。
「確かに維摩さんの言う通りかもしれません。しかし、人間は生きている限り、病気にもなります。病気になれば薬も飲むし、栄養補給のために牛乳も飲みたくなることもあります。だから牛乳をもらいに行くことは決して悪いことではありません。お釈迦様だって人間です。人間であれば、人間らしく生きることが人間である証です。牛乳を飲まないで体調不良が続けば、その引き換えに失うものはあまりにも大き過ぎます。どちらかにだけ偏ってはならないと教えるのが仏教です。それが中道です」

維摩はアナンが自らお釈迦様の教えを理解したことに満足しました。

アナンは、牛乳をもらって急いでお釈迦様のもとに帰りました。

お釈迦様は、アナンがもらって来た牛乳を一気に飲み干しました後、笑みを浮かべなら言いました。
「ああ、おいしかった。これで少し身体もよくなる。ありがとう」

アナンはそんなお釈迦様をみて、心がホッとしました。


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