見出し画像

親不孝な息子の涙

お釈迦様は朝の説法が終えたあと、弟子のアナンを呼んでこう言いました。
「確か、もう古くなって使わない衣と今日の食事の残りがあった思うが、それを持って私と一緒に来なさい」

アナンは慌てて準備をして、お釈迦様の後について外に出ました。お釈迦様とアナンは、貧しい家に着きました。家の戸を開けると、ものすごい臭い匂いが家じゅうに籠っていて、アナンは思わず衣で鼻を覆いました。部屋には寝たきりの老夫婦がいました。老父婦は寝たきり状態で身体を動かすことできないらしく、汚物を垂れ流している状態でした。


「アナンよ、一緒に綺麗にしましょう」
お釈迦様は老夫婦の汚物を片付けはじめ、濡れた布で身体を拭いてあげたり部屋を掃除しました。そして、持ってきた古着と食事を与えると、老夫婦は涙を流して喜びました。

その時、一人の男がすごく怒った形相で家に入ってきました。その男はお釈迦様とアナンを睨めつけながら、厳しい口調で言いました。
「勝手に他人の家に入り込むとは、お前たちは一体誰だ。こんな役立たずでお荷物の老いぼれの世話をしていたのか。こんなやつらは早く死ねばいい。息子に迷惑かける親を親と呼べるか。余計なことをしないで早く帰れ」

お釈迦様は男が話し終るまでじっと待って、話し始めました。
「そう言うあなたも赤ちゃんの時は、汚物を垂れ流していたはずだが、その時は今ここで汚物まみれで寝たきりのご両親が、あなたを綺麗に洗い、新しいオムツに取り替えてくれたのではないか。人間は老いると、再び自分で何もできない赤ちゃんに戻っていくのだ。その時は、息子のあなたが世話をしてあげなければ、誰が面倒みるというのだ。親があなたにしてくれた恩を今こそ返すチャンスではないか。あなたもいずれ老いて誰かの世話にならないと生きていけなくなる。その時にあなたが親にした行いを初めて悔いることになる。そうならないためにも、できる時に親孝行をしてあげなさい」

男は何も言い返せませんでした。
お釈迦様は今度は先ほどとは打って変わって厳しい口調で続けました。
「あなたが赤ちゃんの時、お腹が空いて泣きじゃくっていた時、どんなに疲れていても、どんなに夜遅くでも、ここに寝たきりの母親はあなたに乳を飲ませてくれたのではないか。また貧しくてご飯も満足にない時は、自分たちが食べなくてもあなたにはお腹いっぱいに食べさせてくれたのではないか。それにもかかわらず、あなたは両親にろくに食べ物も与えず、ひもじい思いをさせている。他にもあなたが両親から受けた恩はきっと計り知れないはずだ。にもかかわらず、あなたは早く死ねばいいと暴言をはく。あなたもいずれ老いて同じように扱われるはずだ。それどころが、両親の恩を仇で返すのであれば、ご両親が味わっている以上の苦しい屈辱と地獄が待っているはずだ。誰よりも早く真っ逆さまに地獄に落ちるであろう」

男は俯いたまま黙ってしまいました。
お釈迦様はそう云い放つと、厳しい口調から一転して優しく告げました。
「今からでも決して遅くはありません。私は両親を捨てて出家した身なので、両親の恩に報いることはできない。だからこそ、両親がいるあなたには両親から受けた恩と慈悲の深さに気付いてもらいたい。今こそ世話になった両親に孝行をする時ではないか。両親が亡くなった後に後悔しないために、今何をすればよいか冷静に考えてみたらどうか」

お釈迦様が話し始めてからずっと頭を垂れていた男は、しばらくして顔を上げて、両親の手をとりました。
「お父さん、お母さん、すみませんでした。許してください。これからはしっかりと私が二人の面倒をみますので、安心してください」

恥もしのばず、男は大泣きしながら、両親をしっかりと世話をして行くことを心に誓いった一瞬でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?